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土星の裏側

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宇宙人と呼ばれた人達の診療所

「ナチスと映画」フェア開催 (No.532)

映画といえばこちらもマイナー映画館としてお馴染みの渋谷シネマヴェーラで「ナチスと映画」フェアが3月29日から始まり、このうちソ連映画が2本入ってます。1本はタルコフスキーの『ぼくの村は戦場だった』、もう1本はアレクセイ・ゲルマンの『道中の点検』という宇宙人もまだ見たことのない作品だ。アンジェイ・ワイダの『地下水道』など往年の傑作ほか有名なヒッチコック作品も多数ラインナップ。ユダヤ人だけでなくナチス時代の様々な意味の被害者にスポットを当てたシリアス物を安価な二本立てで観れる機会なので、興味のある方はHPで上映スケジュールをご覧下さい。フェアは4月25日まで。
今回のフェアには入ってませんが、以前ソ連映画フェアをやってくれた時に『炎628』という邦題の、原題は『行き、そして見よ』という反戦映画がありました。これはナチスの侵攻により焼かれたベラルーシの村の話で、主人公の12歳くらいの少年が家族を失いパルチザンになるのですが、村を焼くナチスの手口やその他極限状態を体験して、幼い顔がだんだん老人のように老けていく様子がリアルに描かれるという、結構な恐怖映画でした。『ぼくの村は戦場だった』も似たような境遇の少年の話ですが、さすがタルコフスキーというか映像美が際立つ不思議な反戦映画で、『炎628』と比較すると面白いです。まだ観てない方にはお勧めです。

ところで『炎628』のこの数字はナチスが焼いたベラルーシの村の数だそうで、現在沸騰しているウクライナとあまり話題にならないベラルーシという2つの国の対ドイツ感情の違いがこんなところからも何となく判る気がします。ベラルーシは地理的にはドイツよりはポーランドやリトアニアに近く、文化的にもそちらに共通点が多い国ですが、何といってもロシアの影響力が絶大で、ウクライナに比べればロシアとの価値観共有が濃厚です。628の村が全滅させられたことからも判るようにベラルーシ人はナチスに対して非協力的で、最終的にドイツが負けて撤退した後はソ連から報復を受けることがほぼなかった。ウクライナとは明暗を分けました。ベラルーシは現在ルカシェンコ大統領による押しも押されぬ独裁国家で、民主化の度合いから云えばロシアの方が遥かにマシなくらいですが、民族意識の薄さが幸いしてかベラルーシは地道な発展を静かに続けている不思議国家です。彼らの目は西欧よりロシアに向いており、西側の感覚ではありえない選択なのかもしれませんが、実際に西側に寄ろうとして今エライ事になっているウクライナと比較すれば、こういう選択肢もありなのだと諭してくれます。

先日苫米地英人氏がウクライナ情勢を寸評して、「今回は米国に分がない、国内の人気の落ちたオバマが自らの点数を上げるために仕掛けた喧嘩は裏目に出ている。オバマはちょっと前にシリア侵攻を掲げて勢力奪回を目論んだ時にロシアの横槍で阻まれてしまったのを、今度のウクライナで巻き返そうとしているが(つまり米国の総意ではなくただの私欲)、シリアの時も今回のウクライナもロシアの言い分に理がある」と語ってくれたので、宇宙人は快く頷いた。米国は何かっていうと戦争を仕掛けて自国内の不評を紛らわせようとする政治家が多く、これは中国政府の姿勢にも共通することだが、自分の評価が悪いのは自分が悪いのだから自己改善して上昇させるべき問題であり、他人や他国のあら捜しをして相対的に自分を高めようという姑息な手段は心ある人から見れば却って評価を下げるばかりなのを知れ、と言いたいのである。尤も、心ある人が今の世界にどの程度いるのか楽観できないのが悲しいところではあるが。

『炎628』の話に戻ると、敗走するドイツ兵を捉えたパルチザンが彼らを射殺する前に言い分を言わせてやるというシーンがあり、そこで「気骨ある」ドイツ人は「自分は信念を以って虐殺したのであり、悔いてはいない」と述べ、一方「つまらぬ」ドイツ人は「我々が悪いのではない、戦争が悪いのだ」と責任をよそへ転嫁した。戦後の日本教育もずっと「戦争が悪いのだ」で来たけれど、どうもこれは自分は悪くないという責任転嫁の匂いがしないでもなく、私は子供の頃から「戦争が悪い」と連呼する戦時体験者の姿勢に同情できなかった。彼らは戦時は10代とかの若かった世代で、責任を負わされる筋合いはないのかもしれないが、もっと上の世代になると「気骨ある」ドイツ人と似たような反応を示し、しかし彼らの声は時代の流れに掻き消され気味である。安部首相が取り戻したい日本とはこうした「気骨ある」日本人の倫理観なのではなかろうか。今の世の中責任を取りたくない人間ばかり増えてしまったし。
『炎』はもう40年くらい前の作品ですが、当時のソ連人の目線はこういうところまで行き届いていたようです。自分が悪いものを誰かのせいにして罪を免れようとするのは、いつの時代でもどの国でも見苦しい行為なのだと、今も昔もロシア人は語り続けているのであります。
by hikada789 | 2014-03-26 08:51 | ロシアの衝撃 | Comments(2)
Commented by ハメット at 2015-01-14 00:01 x
「炎628」を観てここに来ました。
大変ロシア通なかたとみえ、積年の疑問をぶしつけながら問いさせていただきます。
ロシア戦争映画の常として、ロシアは戦時中連合国側で最大の人的被害を受けたと発言するシーンをよく見ます。それは事実だと思いますが、旧ソ連がナチスと手を組んだという事実は、今のロシア国民はどう考えているんでしょうか?ナチスは東欧やフランス他、スターリンは北欧へ戦争をしかけ、第2次世界大戦の口火を切ったとわたしは考えますが、ロシア国民はそれは忘れているのでしょうか?
旧ソ連へ留学時、そんなことをお聞きになったことはおありでしょうか?
失礼な質問で恐縮ですがよろしく。
Commented by hikada789 at 2015-01-14 14:33
まず「炎628」の制作年代と今日とは随分時間が離れていること、従って双方の時代でロシア人の考えも異なることをご承知下さい。ご指摘のようにスターリンとヒトラーの共謀は今日の当事国の国民の知るところであり、その他西欧諸国でも通説になってますが、それを各国の政府が認めた時期にはばらつきがあります。ロシアに至ってはソ連崩壊まで情報公開されなかったり政府が認めなかったりといったことが顕著でした。でも公開をしぶったり認めなかったりしたということは、当然上層部は「知っていた」のです。自国民にも長く隠していたのです。
今日のロシア人はインテリほど事実をよく知っており、自責や羞恥を感じ、それが小説などによく描かれているので是非読んでみて下さい。かつての発禁本や上映禁止の映画もこうした点を扱って、今では自由に閲覧できます。一般のロシア人の歴史認識については、一般の日本人が先の戦争について記憶を薄れさせたり感心を示さなかったりするのと同程度です。

by 土星裏の宇宙人