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土星の裏側

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宇宙人と呼ばれた人達の診療所

映画『100,000年後の安全』 (No.125)

宇宙人は働くのが嫌いではない。ぼんやりしていると頭の中が妄想だらけになってしまうので、できれば何かに集中している方が嬉しい。中途半端に集中していると妄想が同時進行することになるのだが、これは職場でよくなる状態で、これまで経験した労働で宇宙人が本当に集中力を必要とした仕事はロシア語新聞翻訳しかなかったから、その他の職場ではもれなく妄想モードの余力で働いていたことになる。つまり楽な仕事だったので、宇宙人はこれが天職とは到底思えず、環境が悪化するとあっさり辞めてしまう。辞めた後はすっきりする。自由を取り戻した感じだ。ゆえに宇宙人は職場を刑務所と呼んでおり、そこでの就労を刑務と考え、退職を出所と捉えている。出所すると気の利いた友人は、「お勤めご苦労様でした」とメールをくれる。お勤めの意味が違うのである。
しかし生活を維持するためには、そうそう自由を満喫してばかりもいられない。仙人のようにカスミを食べて雲の上に暮らせるようになるにはまだまだ修行が足りず、宇宙人はわざわざ刑務所に戻り、短期間の不自由に耐えるのだ。実に不毛だ。罪を犯しているわけでもないのに刑務所に入らなければならないのはなぜなのか?それとも不自由に耐えて不毛な労働をしなかったそのことが罪なのだろうか?働かないのが罪ということですか。そういうことですか、神様?

非建設的な問答はこのくらいにして、建設の話をしよう。以前No.002で紹介したロシア映画フェアをやってくれていたミニシアター「UPLINK」(渋谷)が、また娯楽とはほど遠いドキュメント映画を上映してくれた。『100,000年後の安全』というフィンランド映画(配給は多国籍)で、本来この秋からの上映だったのが、福島の原発事故を受けて上映開始を前倒ししたという、放射性廃棄物埋蔵地と関係者のコメントをつないだ暗い作品だ。初耳だったが、フィンランドは人口500万しかいないのに既に放射性廃棄物の埋蔵を開始しているのだ。国土面積の割に人口が少ないのが適していると考えたのか、人里離れた山奥ならぬ雪の森に埋蔵のための巨大地下施設を建設し、今も拡張している。
ロシアの隣国フィンランドは、その隣人とは真逆の性質で、堅実で大人しく、清潔好きで極端に走らない美点を持つ国民性だが、そのフィンランドでいかにもきっちりした管理体制を整え、万全の安全対策を講じて、埋蔵を断行した。放射能を出し続ける廃棄物は放射線を遮断するきれいな水の中に整然と沈められ、まるで宝物のように大事に鋼鉄に包まれて地下へ密閉される。密閉容器の耐年数は100年とも1,000年とも。しかし廃棄物そのものが無害化されるのは少なくとも10万年必要だという。ナレーションは言う。「10万年後もこの施設が健在だったら、エジプトのピラミッドを超える人類史上最古の建造物になれる。」しかし仮にそこまで施設がもったとして、その間に誰かが掘り返したらどうする?という点が、本作品のメインテーマである。

ヨーロッパ的考え方というべきか、彼らは現在の人類文明と10万年後の地球文明が断絶しているという前提で話す。それは世界史が、たとえば古代エジプトの表意文字が現代語とつながらず、専門的な解析がないと読めない文字であることから、文字も話者である人種も当然断絶し、別の人類がその頃地球を支配しているだろうという発想だ。
私にはちょっと違和感がある。遠い未来に対する想像力が乏しいからか、ヨーロッパ人の考える世界史って所詮遡ってもエジプト止まりの欧州大陸中心の歴史で、アジアとか南半球の歴史なんて、文字がなかっというだけの理由で眼中にないじゃん、とその所見の狭さを嗤っているからか。とにかく作品に登場する科学者たちは、ここは危険です、という標識は立てておくが(まだ案である)、現存するすべての言語で書いておいても、多分未来人は理解できないのではと、未来人を未開人扱いして話を進めるのである。
「すでに我々と同程度に文明を発達させて、放射性物質の検知器とか持っているかも」
「持ってないレベルだったら?我々だって100年前はなかったよ」
「そんなレベルなら、この深さまで掘削する技術だってないだろう。ハッハッ」
こんな感じだ。

人間の心理として、「やめろ」と言われるとつい好奇心が湧いて「やって」しまうので、いっそ標識など立てず、施設も完全にサラ地に見えるようにし、誰にも注目されないまま10万年をやりすごそうという案もあり、意見が分かれている。なるほど、そうやってエジプトのピラミッドも暴かれたのだったな。ファラオの呪いとやらで死んだ関係者たちは、実は現代人の知らぬレベルの技術で作られた古代の廃棄物処理施設をうっかり開封してしまい、無味無臭の毒物を吸い込んで死んだのかもね。高濃度の放射線を浴びると、直後はなんともなく、1時間後くらいにふらつき始め、下痢と嘔吐と出血で病院に担ぎ込まれて、数日で死ぬという。似ているような。
でもピラミッドにはちゃんと標識があったよ。この王墓を暴く者は…的な警告文が。これはやはり親切ととるべきではないか。読めようが読めまいが、開ける方は開けた責任をもつのだから、埋める方も責任もって注意書きを残してくれよ。そうでないと、まるで山中でこっそり行うゴミの不法投棄と同じになるじゃないか。未来人の知能をバカにする前に、我々より賢いかもしれないという想定もしてくれよ。こんなんだから人類は失敗ばっかりしているのだ。

と西洋的思考に対する批判はともかく、問題提起としてはとてもよい作品だと思います。映像もきれいだ。そういう定評のある監督だそうで、おそろしい使用済み核燃料棒が透明な水の底でゆらめきながら銀色に光っている映像は、確かに未来の海賊がお宝探しに心をときめかせるに足りる光景に見える。各国の映画祭で賞をとっているから評価も高いけど、人類のアホさ加減が、登場する科学者の言葉から図らずも知れてしまうので、登場人物たちから名誉棄損の訴訟が起きないか心配である。2009年の作品でした。
by hikada789 | 2011-10-13 13:35 | その他 | Comments(1)
Commented by hikada789 at 2011-10-15 21:50
私も青春時代の半分を大陸放浪に費やしたわりに現在日本にとどまっている理由のひとつは、日本語がおかしくなったことです。適切な熟語や慣用句が出てこないのは何とも気持ちがわるく、いまのところ海外再移住の予定はないのでした。こうやって人間歳をとっていくのですね。

by 土星裏の宇宙人