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土星の裏側

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宇宙人と呼ばれた人達の診療所

ロシアの片思い (No.238)

前回続き。日露両国の国民が互いをどう思っているか。さてロシア語を多少なりと知っている日本人はどのくらいいるだろう。あなたの周囲は皆無に近いに違いない。そもそも文字が読めない。発音は英語やフランス語に比べれば日本人の耳に優しいのだが、それさえ知られていない。では日本語を知っているロシア人はというと、結構いる、というより日本語は難しい言語なので読み書きできるほど熟知されてはいないが関心は高い。小中学校の選択授業で日本語が設けられている学校だってあるくらいだ。まあ人気は独仏語に及ばないが。なぜそんなことができるかというと驚くなかれ、ロシアにおける日本語教育の歴史は既に350年、ピョートル大帝以前に遡るのだ。

大黒屋光大夫がロシアに漂着したのはエカチェリーナ二世の時代だが、その頃既にロシアは日本語通訳を抱えていた。欧州列強におくれをとっていた帝政ロシアは、通商と軍事戦略のため極東の日本にずっと関心を寄せていたのだ。ロシアは中国と陸続きで当時の清とはしばしば軍事衝突していた。清の背後の日本を味方にしておけば安心だったのだ。ここで断っておくが、ロシアはあの膨大な国土を防衛するために「隣の隣の国」と同盟するという図体に似合わぬ伝統を持つ。隣国が牙を剝いた時に背後から牽制させるのが目的で、今も昔もかの国の国防の基本はこれだ。ともあれロシアは日本に対して元より敵愾心がなかったし、江戸時代の武士に何度か接触して日本人が話の分かる文明人であることを知っていたので、知日であることはロシア知識層のワンポイント・レア・アイテムであった。しかも前回挙げた通りロシア人は文化・芸術が大好きなので、東洋のガラパゴスとして独自の文化を綿密に練り上げた日本に興味津々だ。文明度合としては同じ東洋に中国も朝鮮もあったのにわざわざ海を越えた日本を、というところがロシア人の目の高さだと日本人は有難く認めるべきである。日本文化とロシア文化の共通性については最後に述べよう。

そして今日のロシア人も依然として親日である。あこぎな欧州諸国のような真似をしない、米国のような拝金単細胞でもない、サッカーの試合ごときで暴動も起きない、勤勉で慎ましく、しかし頭の中はとても複雑というのが彼らの抱く日本人像である。ところが日本人はそんなロシア人の片思いも知らず、日露戦争、シベリア抑留、冷戦とロシアが日本に対して親切であったことなどないとばかり冷淡だ。明治時代あたりはロシア飯など他の西洋料理と一緒に普及してたのに、冷戦以降極端に減退した。米国の陰謀だ。そんな環境でもロシアに興味を示す日本人といえば文学や芸術分野に偏っており、なるほどロシア語の難易度によく耐えて習得しているがその頭でっかちな性情は否めない。宇宙人が見ても目がいっちゃってる研究者とか多いし。だからロシアのサブ・カルチャーなど尚更紹介されない。日本のアニメや漫画や小説が欧米並みにロシアで普及しているのとは大違いだ。というわけでシンポジウムのパネリスト達は、このギャップを何とか埋められないものかとしみじみ嘆くのであった。

宇宙人は中学生くらいの頃からロシア(当時は音楽)に興味があったが、日本人が本能的にロシア文化に惹かれ得ることについてのエピソードを紹介しよう。「赤とんぼ」で有名な20世紀の大作曲家、山田耕作は若い頃、西洋音楽を学ぶべくベルリンに三年間も留学し、その後の活躍でも判るとおり立派にドイツ音楽を習得した。しかし運命の悪魔の悪戯でその帰国の途上、偶然立ち寄ったロシアの街で偶然スクリャービンの音楽が流れてくるのを聴く。山田は衝撃を受け、苦労して三年も習ったドイツの音楽より数分のロシアの音楽に圧倒されてしまったのである。なぜならロシアの音楽には日本人の情緒に訴える部分があり、単なるアジア的要素を超えた原始的共通項が根底にあるからだ、というのが通説である。宇宙人の友人はしばしば宇宙人がこう絶叫しているのを聞いたことがあるだろう。「ぜんぜん違うんだよ!」ロシアとそれ以外の西洋クラシック音楽は。しかし言葉足らずの宇宙人はその違いについて効果的に表現できないのが残念である。
by hikada789 | 2012-06-06 23:06 | ロシアの衝撃 | Comments(0)

by 土星裏の宇宙人