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土星の裏側

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宇宙人と呼ばれた人達の診療所

魅力的な微笑み方とか (No.247)

No.243で触れたソクーロフ・フェア。『モスクワ・エレジー』というタイトルの作品を観に行ったら、アンドレイ・タルコフスキー監督に捧げた追悼ドキュメンタリーだった。
スナップ写真のようなモノクロ画像の中で生きたタルコフスキーが動き回り、しゃべっている。それを部屋の片隅から眺めるような視点でソクーロフのナレーションが語る。タルコフスキーは54歳でパリで客死したが、この作品で使われた動画はより若い頃のもので、映画関係者に向かって率直に語り、或いは考え込み、歩き回り、壁に寄り掛かってまた語り、笑う。「彼の魅力的な微笑み方とか…」とナレーションが語る。いや実に可愛い笑顔なのだ。ロシア語で笑みをウルィプカというが、これは大口を開けた笑いではなくニッコリ微笑むというニュアンスで、真実追求が身上のロシア人は営業用スマイルをしないので(そもそも営業がソ連に存在しない。スチュワーデスさえ仏頂面だった)、本当に嬉しいか可笑しくないと笑わない。タルコフスキーは何か映画か芸術の話をしていて、言いあぐねていたところを的確な表現なりを思いついて相手に伝え、それに満足したように笑う。相手に正しく伝わって、同意してくれたら嬉しいというウルィプカである。お蔭でこの人は年を取ってくると目尻に無数の皺ができた。彼の映画作品はソ連の世相を反映してか暗いトーンのものばかりなので、本人がこういう笑い方をする人だとは知らなかった。いや実に、実に可愛い男なのであった。
by hikada789 | 2012-06-24 22:36 | ロシアの衝撃 | Comments(0)

by 土星裏の宇宙人