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土星の裏側

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宇宙人と呼ばれた人達の診療所

疾駆する楽器 (No.252)

日々の気温が上がってきました。タコ・クラゲ型の宇宙人は冷蔵庫から出された刺身のようにぐったりしてきました。東京の夏は本当に苦手です。冷房自粛のため日中は涼しい公共施設を渡り歩くこの季節、例によって朝から芸大音楽部の無料学生コンサートに行ってきた。
今日は作曲科学生の作品の演奏と、ヴィドール「オルガンとオーケストラのための交響曲」。前者の曲名は「天の川銀河」で壮大な宇宙をイメージした現代音楽。演奏時間12分。悪くなかったよ。悪くはなかったけど、その後のオルガン協奏曲との抱合せが不運だった。だって芸大のパイプオルガンは国内屈指の本格スケールで、その音量は楽器界最大だというのに加えてフルオケとの合奏だ。聴いている人間がちっぽけな気分になるほどの荘厳で巨大なハーモニーが、20代の学生の、明確な旋律を禁じられているも同然の現代音楽で太刀打ちできるはずがない。拍手の数に差が出てしまって可哀相だった。まあオルガンの前の演奏だったのがせめてもの救いだけど。現代音楽は玄人向けなので、無料コンサートに来るお客さんにはホニャララなのはいつものことでした。

パイプオルガン演奏がオーケストラと共演できるというのは、この無料コンサートに通うようになってから知った。以前は教会やホールで単独演奏するものと思っていたのだ。オケとの共演には工夫がいる。巨大なパイプオルガンは動かせないのでオルガン奏者は聴衆に背中を向けて演奏するが、その背中と聴衆の間にオケと指揮者が挟まっている。指揮者は当然指揮棒を振る。オルガン奏者にはこれは直接見えずどうやって合わせているのかと思ったら、どうやら鍵盤付近にモニターがあるらしい。モニターのない時代はどうやっていたのか興味深い。
オルガン演奏を初めて見たときは驚いた。いつも女性奏者なのだが、まず衣装がミニドレスに黒のスパッツである。ピアニストやバイオリニストはロングドレスなのになぜ?と思ったら、なんと、オルガン奏者は腰を浮かせて足鍵盤の上を文字通り走っており、ランナーズウェアでなければならぬのだった。しかも本日のようにオケと張り合うような曲は、オケに負けないよう低音つまり足鍵盤の出番が多い。足だけの長いカデンツァでは奏者は両手をめいっぱい広げ鍵盤の両端にある専用グリップを握りしめて体重を支え、足鍵盤の上をタップダンサーのように踏み踊るのである。拷問シーンにさえ見える。私はオルガンほどカロリーを消費する楽器を知らない。音楽界のマラソンランナーは、故に太ることもできない。神様と向き合う楽器とはいえ、まさに命懸けだ。
しかしその殺人的な低音のなんと荘厳なこと。最近ロシア・オペラのバス独唱ばかり好んで聴いている宇宙人は、低くて太い音が大好きなのだ。それにパイプオルガンは誰が考えたのかその巨大さゆえに演奏と実際の音との間にやや遅れが生じるのと、パイプを塞ぐフタの開閉する音がバタッ、ガシャッと聴こえるのが何ともアナログでよい。CDで売る時はきっと雑音として修正されてしまうのだろうが、生演奏はありのままだ。

冷房で涼んだ上音楽も満喫した宇宙人。しかしこの無料コンサートも日本の不況の波をかぶり、来年度から有料化の計画がされている。アンケート用紙が配られ「いくらくらいなら有料でも見に来てくれる?」と訊ねる音楽家たちの低姿勢が涙ぐましい。この学生コンサートの歴史は40年に及び、教授連も愛好者も終わってほしくないと思っている。今日はマイナーな演目なのでちらほら席が空いていたが、有名処だと満席で入れないくらい人気がある。国立大学も大変なんだな。数百円なら払ってもいいので是非継続してほしい。
by hikada789 | 2012-07-06 00:31 | その他 | Comments(0)

by 土星裏の宇宙人