人気ブログランキング | 話題のタグを見る
ブログトップ

土星の裏側

doseiura.exblog.jp

宇宙人と呼ばれた人達の診療所

たまにはアニメ論 (No.305)

アニメ好きの方から今シーズンはどの新作がお勧めかと問われた。私はアニメ通ではないし先シーズンは何も見なかったので個人的な好みの話にしかならないのだけれど、例によってタイトルと画で新作アニメの9割を排除し、残った1割の第1回放送を見てその後もどうにか見続けているのは『K』と『絶園のテンペスト』です。理由は毎度おなじみの「音楽」。クラシック楽器を使ったBGMにいくつか冴えた曲が混じっており、ストーリーには大して惹かれないがとりあえずしばらく聴くつもり。『絶園のテンペスト』は音楽を大島ミチルが担当しており、悲壮なテーマ曲をフルオーケストラで雄大に奏でております。アニメにはもったいないくらいです。ベートーベンのピアノソナタ「テンペスト」を編曲して使用しているのも趣がある。でも物語はどちらもあまり。子供向けです。

子供向けといえば『ガッチャマン』の再放送が夕飯時にやっていてつい見てしまうのだが、子供の頃には見過ごしていた人間像が意外に真実を反映していることに気付いた。主人公のケンは科学忍者隊のリーダーでありながら、「敵ギャラクターの襲撃の度に出撃するのは不毛で、敵の本拠を潰さなければ不幸はなくならない」と事あるごとに主張してチームワークを乱す。そしてチームの危機を招いては己れを騙し騙し出撃して毎回の話をつなぐのだが、ガッチャマンの成立年代は1970年代前半、ベトナム戦争やら学生運動やらで社会通念や価値基準が揺らいだ昏い時期に当たる。そうした時代の若いアニメーターが作った脚本に、社会そのものを根本から改革しないとだめなのだという革命思想とその挫折が見え隠れしているのだ。そう考えると、やられ役にもかかわらず毎回手を変え品を変え悪さを仕掛ける敵ギャラクターのしぶとい生命力に真実が見えてくる。この世の悪事や弊害は叩いても叩いてもなくならないモグラ叩きの仕組みなのだが、ピコハンマーでモグラ叩きの堅牢なマシンそのものを破壊することはできない。
その後1970年代終わりに登場する初代『ガンダム』に至ると、主人公は完全に卑屈な少年に成り下がる。これは学生運動で挫折し大学を追われてまともな就職ができなかった不幸なインテリ青年が、アニメというマイナー業界に集まったがゆえの産物とはよく言われている。初代ガンダムは子供向けアニメに暗い現実と人間ドラマを盛り込んだ日本アニメの金字塔である。社会の不条理なくして今日のジャパニメーションの繁栄はなかったのだ。

さて最近のアニメにもそうした社会の鏡が描かれているはずなのだが、どうにも人間に力強さが欠けるのが気になる。現代人が繊細になったと言えば聞こえはいいが、不敵で余裕な笑みを浮かべるニヒルな人間を多く登場させる傾向が続いている。そうしたキャラは私は本来好きだが、あっちもこっちもとなると却って不快感が増す。この種の「集団から離れて眺める」傍観者的立場の人間は一人で沢山なのだ。全員が集団の外から出てしまったら、もはや眺めるべき対象ははい。つまりそれは既に傍観者でないのである。そのへんの視点や総合意識が制作者に欠けているというわけだ。見た目のかっこよさを優先して中身が薄くなった。

私は村上春樹の作品が好きでないが、あるドストエフスキー研究者が村上作品を批判して言うには、「都会の団地に育った画一的で小奇麗な中流家庭の域から脱しない世界しか描かれていない。ドストエフスキーの『罪と罰』には、引き籠り学生の主人公がありったけの汚れた下着を突っ込んだ息詰まる屋根裏部屋に暮らしていて、そんな極限の環境で人間がどんなことを考え行動するのかを克明に描いているのとは対照的だ」。私も同感で、村上作品が世界中に読者を獲得しているのは、画一的な今どきの世代が理解しうる世界がその範囲内にとどまっている表れではないかと思う。その作品の人物たちは何となくみんな余裕をかまし、ささいな不都合を一大不幸のように取り立ててほじくるものの、いつも小ぎれいなのだ。身なりを気にする余裕がある人ばかりで、ばっちい物には近寄らない。

私は算命学をやるので、調舒星や龍高星など身なりや世間体を気にする余裕を打ち砕く星をずらずら持つ人間がこの世にいることを認め、相談さえ受けている。そういう観点からも村上作品の狭く安全な世界が許容できないのであるが、皆さんの中には好きな人も大勢いるんでしょうね。好みはそれぞれです。
アニメの話で始まったので、漫画の話で締めくくろう。以前紹介した獣木野生の『パーム』で、かわいいゲイ青年がぶっちゃけ話をするシーンでこう言っている。「クソが怖くてホモができるか!」この漫画家、女性なんですよ。女性であってもこうした事情が判るし、勇気があれば表現だってできるのだ。
by hikada789 | 2012-10-26 11:58 | その他 | Comments(0)

by 土星裏の宇宙人