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土星の裏側

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宇宙人と呼ばれた人達の診療所

本当にあった生霊事件 #2 (No.426)

(前回つづき)五月になった。五月は母の日があるため花卉業界では繁忙期である。忙しい時期だというのに相方のA嬢の仕事ぶりがおかしい。入力ミスが続き、隣に座っている私との連絡も覚束ない。というよりすぐに言ったことを忘れてしまう。具合が悪そうなので所長が気を利かせてその日は早退させるが、A嬢が一人でやった仕事が確かか不安なので、私に頼んで二重チェックをさせる。しばらくそんな状態が続くが、A嬢は自分の仕事が信頼されていないことを察して不満気である。しかし物忘れは更に激しくなり、A嬢一人に任せるのはあまりに危険と周囲は判断せざるを得なくなる。

所長のO氏は英語とスペイン語が堪能なインテリ・パパだが、実に柔和な男で、人と争うところは見たことがない。男女共に好かれるナイスミドルである。私の入社当時もA嬢とあまりに気さくに話をするので、この二人できてるんじゃないかと疑ったほどだが、この時もA嬢を大層心配し、仕事をいくらもしなくても労って早退させるなど、武道家の私には考えられない甘やかしようである。そういう社風なのだなと了解し、仕事もダブルチェックは面倒だが最初から一人でやる分にはさして重荷にならないので、当面私はA嬢の分まで二人分働いた。人の分まで働くという事態は、それ以前の職場でも以後の職場でも概ね同様であった。私が気を付けることは、A嬢のプライドを傷つけずに仕事を自分のエリアに引き込むことぐらいである。

その後A嬢は休みがちになった。所長の話ではA嬢の親御さんがガンになり、同時に本人が更年期障害と診断されたということだった。年齢としては随分早いが皆無という年ではない。物忘れはこれで説明がつく。ついでに彼氏にもフラれたようだが、いずれにしても度重なるショックが原因で医者は鬱病との診断も下し、A嬢は診断書を直接所長に提示したという。柔和な所長はクビにするのは忍びないので、貿易の部署から外してミスしても大事にならない社内事務への異動を勧めるが、A嬢のプライドが許さないらしく、辞令が出せない。
A嬢は鬱病の薬をデスクの上で音を立てて取り出して呑み、物忘れを指摘されたわけでもないのに自分の働きぶりが悪いのかと周囲に当たってはこれ見よがしのため息をついた。繰り返すが武道家である私はこの種の態度は許されない環境で生きているので、あなたの更年期障害など誰も責めはしないが、更年期とは関係のないそうした子供のような態度は社会人として慎むべきだ、と率直に助言したところ、ものすごい目つきで睨まれてしまった。A嬢は所長の取りなしで早退し、翌日から病気休養となった。私にとって仕事はしやすくなった。(この経験のため私は鬱病の人が嫌いになった。)

A嬢が容易に復帰しないことは明らかだったので、所長は人員を補充した。ちょうど私の知人Bが求職中だったので、A嬢が回復するまでのアルバイトとして雇うことになった。Bは有能なので仕事ははかどったが、私にとって苦手な夏が近づき、梅雨の蒸し暑さで寝苦しく、睡眠不足で体調が悪くなった。夜中に2度目が覚める習慣が続いていた。そのことをある日Bに洩らすと、それは何時頃かと尋ねるので、決まって2時半と4時前だと答えると、Bは自分もだという。驚いて顔を見合わせると、近くに所長もいたので「こういうことってあるんでしょうか」と何気なく訊くと、所長もまた自分もそうだと白状する。
この辺りから雲行きが怪しくなる。Bは語り始めた。Bには霊能者の友達C嬢がいた。数日前にBがC嬢と電話で喋っていたところ、突然C嬢は霊視を開始し、「お宅の最近の職場、変な物が見える。ちょっと心配」と言ったという。何が心配なのかと問えば、「こういう髪型で、こういう服の趣味の、こういう体型の、こういう年頃の女が憑りついている」とオカルトな回答が寄せられた。その風貌は誰あろう、まさしくA嬢であった。

Bは入社して間がなく、採用時に前任者が休養中だとは話したが、それがどんな人か名前も風貌も教えたことはないし、無論写真も見せてはいない。前任者について話題に上ったこともない。それなのにBが、というよりBの友人であるC嬢が電話で話しただけで会ったこともないA嬢の風貌をピタリと当ててみせたので、それが「憑りついている」という表現もにわかに信憑性を帯びてきた。おまけに3人とも夜中の同じ時間に2度目が覚めるという事態をここ数日繰り返している。
他にも異常はないかと探すと、昔患った肩こりや腰痛の再発や、自宅での電子機器の故障、電話が一回鳴って止む、など共通点が発見できた。Bに限っては遠い実家で飼っている飼い犬がまだ若いにも拘わらず突然死んでおり、腰痛や機械の故障くらいなら取るに足らなくても、ペットの命までとあっては見過ごせない。所長は複雑な顔をして黙っていたが、後に彼もまた家庭に問題が浮上していることが判った。私はというと、原因不明の湿疹が手指に出来、穴が開いて中から透明の液体が流れ出すという事態が始まっていた。私はアレルギーも繊細な皮膚も無縁で、血液中のアルコール濃度が高いせいかダニにさえ咬まれない頑丈な皮膚が自慢であった。病院にも行ったが医者も首をひねるばかり。総合薬をもらって毎日塗ったが一向に効き目がない。(この穴は日々増え続け、最終的に両腕、両足から胴体にまで及んだ。)
3人が3人とも霊や霊能者を信じているわけではなかったが、事態のあまりに異常な符号に揃って戦慄し、Bを介してそのC嬢とやらにこの職場で何が起こっているのか教えてくれるよう、事務所への足労を依頼したのであった。(つづく)
by hikada789 | 2013-07-16 20:17 | その他 | Comments(0)

by 土星裏の宇宙人