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土星の裏側

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宇宙人と呼ばれた人達の診療所

現代版「三匹の仔豚」 (No.566)

むかしむかし、三匹の兄弟仔豚がおりました。長男仔豚はわらで作った家に住み、次男仔豚は木の枝で作った家に住み、三男仔豚はレンガで作った家に住んでいました。すると大きなオオカミがやってきて、まずはわらでできた家に近付きます。
「仔豚さん、仔豚さん、オレを中へ入れておくれ」
「いやだよ、僕を食べる気だろう」
その通りだったのでオオカミは息を吹き掛け、わらでできた家を吹き飛ばそうとしました。しかしわらは出雲大社の注連縄のように大きく束ねてひねってあったのです。束ねたわらがどんなに重いか知らなかったオオカミは、諦めて次の家に向かいます。次の家は木の枝でできていました。
「仔豚さん、仔豚さん、オレを中へ入れておくれ」
「いやだよ、僕を食べる気だろう」
その通りだったのでオオカミは息を吹き掛け、木の枝でできた家を吹き飛ばそうとしました。しかし木の枝とは実は竹のことで、竹を細く割いて編み上げた家は見た目よりずっと頑丈でした。しかも四隅の柱は生きたままの青竹で、その根っこは地中深く伸びて遠くの竹林と繋がっていたのです。風で揺れることはあってもしなるばかりで一向に吹き飛ばされません。オオカミは諦めて次の家に向かいます。次の家はレンガでできた家でした。
「仔豚さん、仔豚さん、オレを中へ入れておくれ」
「いやだよ、僕を食べる気だろう」
その通りだったのでオオカミは息を吹き掛け、レンガでできた家を吹き飛ばそうとしました。しかしレンガは頑丈なので一向に揺らぐ気配もありません。そこでオオカミは一計を講じることにしました。オオカミは環境庁職員に化けてドアのチャイムを押したのです。

「環境庁の者ですが、このたび環境破壊を促進する住宅工法を取締まることになりました」
「エッ、なんですって?」
仔豚は驚いてドアの内側に飛びつきます。
「お宅の家はレンガ作りですね。困るんですよ、レンガを焼くには燃料が必要でしょう。お宅の裏山がすっかり禿山になってるじゃありませんか。この地区では先進的な意識をお持ちのお宅が多くてですね、ここへ来るまでにも環境に配慮したリサイクルわらや竹のおうちが沢山あったんですよ。どうしてお宅もそうしないんです。レンガは頑丈で見た目も綺麗ですが、環境にやさしい建築材とは云えません。まあ、最近できた環境保護条例をご存知ないようですし、今日のところは罰金だけにしておきますから、一年以内に取り壊して下さい。なに、ご近所にわらや竹のお宅がありますから、彼らにアドバイスをもらえば建て直しは簡単ですよ。再生可能な建材ですからね、エコなんです」
今日のところは罰金だけにしておく、というくだりは何だか振り込め詐欺みたいだったので三男仔豚は警戒しましたが、確かに裏山に木がないのはこの家を建てるためのレンガを焼く時に伐採したからだったので、言い逃れはできませんでした。仔豚はドアの内側から尋ねます。
「レンガの家は悪い家ということになったわけですか」
「そうですよ。もうグリム童話の時代とは違うのです。ヨーロッパ人の思考という奴はとかく人間中心になりがちで、まああなた方三兄弟は豚ではありますが、この場合擬人化されていますから人間と考えて、レンガを作り出した人間の知恵、つまりヨーロッパ人の知恵というべきしょうねえ、草や木でできた家に住む南国文明の人々の知恵を認めていないわけですから、そういうレンガという素晴らしい文明の利器を手間暇かけて作った自分たちは素晴らしいと、こういうわけですな。しかしそのレンガを焼くのに周囲の樹木を伐採して禿山にしてしまったことなど、彼らはひと言も触れんのです。なぜなら人間さえよければ周囲の自然などどうでもいいという考え方でできた文明ですからなあ。しかし昨今はそれでは済まされんのです。これ以上伐採すると自分達の首が締まることにようやく気付き、代わりの建材を求めたところ、再生可能素材として植物が有効であるという結論に達したわけです。彼らが馬鹿にしてきた異国文明の建材です。わらや樹木はそのままでは確かに脆弱な掘っ立て小屋くらいしかできませんし、大風で吹き飛ばされてしまうものですが、異国には異国の知恵があって、工夫をして風くらいでは飛ばされないよう細工されているんです。しかも地域によっては地震や津波といった自然災害があり、こうした時には堅牢な建築物というのはそれだけで凶器になるのです。仮に災害で家が壊れて流されても、植物素材の家なら柔らかいですから二次災害の凶器にはなりにくいですし、災害復興も楽ですよ。全部燃えるごみですから、瓦礫処理に頭を悩ませることもありません。新築も簡単です。都合が悪くなればまた壊して別の場所に建てればいいわけですし。なまじ堅牢な住宅を建てることに拘るから非常事態なのに費用だ、工期だともめることになるのです。いや、ともかくですな、お宅のような住宅が優良だというのはもう古い考えなんですよ。お宅の三兄弟も、お兄様方はこれまで怠け者ゆえわらや木の枝といった楽ちんな家を建てたと認識されていましたが、そんなことはありません。ここへ来る前に通り掛かりましたが立派なお家でしたよ。風なんかではびくともしません。自然の風合いが優しく周囲の風景に溶け込んでおり、何より環境にやさしいし、万一地震で潰れて中にいた住民が下敷きになっても死にゃしません。軽いですからな。それに比べてお宅はどうです、レンガの下敷きになって骨折で済めば儲かりものですなあ」
オオカミは、我ながらよく舌が回るわいと心の中で自画自賛しながらドアの向こうの反応を待ちました。三男仔豚は手間暇かけて作った自分の家が、今まで称賛の的であたった我が家が、いまや非難と嘲笑の的となっていることに愕然としました。しかし環境庁職員の言葉は確かに昨今テレビで報じられている内容に沿ったものだったので、やはり時代は変わったのだと観念するしかありませんでした。
「わかりました、今日のところは罰金をお支払しますから、一年の猶予を下さい」
仔豚はドアを開けました。そしてオオカミの大口に呑み込まれてしまいました。おしまい。

(※著作権は土星の裏側の宇宙人に属します。解釈は読者の方の自由です。)
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by hikada789 | 2014-06-17 14:30 | その他 | Comments(0)