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土星の裏側

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宇宙人と呼ばれた人達の診療所

笑って読む『小説・北方領土交渉』 (No.573)

作家というのは通常小説に書きたい題材の周辺を取材してリアリティの演出に役立てたりするものだが、佐藤優氏の場合本人の経歴がそのまま題材になっているため取材の必要がない。それでいて読者にとっては窺い知れないシークレットな題材ばかり。本人はただ自分の脳味噌の中身(しかも既に分析済み)を必要に応じて整然と吐露するだけでよく、それを読んだ読者はフグにでも当たったようにビリビリと痺れてしまう。恐ろしい人材を世に出したものである。彼を失職させ作家の道に追いやったのは外務省であり国家権力だが、その作家のペンで己の過去の悪事と現在の無能をぐさぐさに暴かれると知っていたら、いっそ外務省で大人しく飼っていた方が安心で良かったであろうに。

というわけで前科もちの知の巨人、佐藤優著『小説・北方領土交渉~元外務省主任分析官佐田勇の告白』を読了し、大いに笑いました。今年1月の上梓なので新刊に飛びつかない宇宙人としてはかなり早めに読んだ方ですが、今回の作品は去年のGWの安部・プーチン会談とその裏事情を解説したタイムリーなネタなので、早めに読んで正解でした。
何が笑えるかといって、まず登場人物をそのまま実名で出すと危ないので全員偽名に変えてあるんだけど(あくまで小説という体裁)、佐藤優が佐田勇なのはいいとして、ムネオ氏が都築峰男とか、小沢一郎が大沢一郎とか、新党大地が新党大空とかミエミエのギャグ仕立てになっており、政界の大物も何となく漫画な顔に見えてくる。またウラジーミル・プーチンなどはウラジミロフ大統領という呼び方をされているのだが、北方領土交渉をスムーズに始めるために佐田(佐藤)が信頼する政治家に提出したレポートには「ウラジミロフ大統領の好きな言葉、話題/嫌いな言葉、話題」というメモが付されており、その内容の抜粋は以下の通り。
◆好きな言葉、話題:
・ストルイピン首相(シベリア開発に熱心だった帝政期の政治家)
・ユーラシア同盟
・相互利益
・犬
・名誉と尊厳
◆嫌いな言葉、話題(※要するに話題にしてはならない):
・夫人の様子
・ロシアにおける外国NPO、NGOの活動
・人権弾圧
・一方的な歴史的、法的解釈
・シェール革命

特に笑えたのが「外国NPO」と「シェール革命」と「犬」かな。秋田犬のユメは下手な外交官より余程役に立っているようだね。環境保護団体グリーンピースのメンバーがバレンツ海での海賊行為容疑で拘束されたのは記憶に新しい。あの事件は結局ソチ五輪がらみの恩赦で恩を売って釈放したらしいが、プーチンはやっぱりああいう羊の皮を被った偽善者は嫌いなんだな。西欧の制度や価値観を文化の違うロシアにそのまま導入できないことを知っているし、それを羞じたりもしない。
奇しくも私も先日「三匹の仔豚」の新解釈で西欧の価値観への疑いを提示してみたが、この点プーチンとはウマが合いそうだ。というより私がロシア滞在でその風土の影響を受けたから先方に似てしまったのだろう。それは佐藤優氏にしても同じことが云えるし、この小説の中でも本人がそう自己分析している。そういう意味で日本とロシアは、自分が一番正しいと勘違いしている西欧文明への対峙姿勢を共有できるはずなのだが、悲しいかな、どちらの国の国民性も謙虚さを美徳としているため他者に対する憧憬の念が強く、自己の文化に対する過小な評価をハンパな外国かぶれほど大声で唱え、思慮深い知識人の公正な評価の声をかき消してしまっている。ロシアはそれでも正しいことは正しいと諦めずに言い続ける文化が伝統としてあるけれど、日本人はそこまで持久力がなく、前科者になってまで復活を遂げた佐藤氏などはまさにロシアの影響を受けたからこそゾンビとなって甦ることができたのであり、通常の日本人なら心が折れちゃってウツとグチで生涯を終えているところだ。

これから国際舞台で活躍したいと考えている学生たち、留学先が決まっていないならロシアへ行ってみないかい。かの地では欧米に追従しない独自外交を担う人材として日本に必要な頭脳を磨ける可能性大なのだが。まあ単なる感覚のズレた人になる可能性もあるけどさ。
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by hikada789 | 2014-07-01 13:44 | 宇宙人の読書室 | Comments(0)