ブログトップ

土星の裏側

doseiura.exblog.jp

宇宙人と呼ばれた人達の診療所

それでもOKに通ってしまう (No.591)

内田樹と観世清和の対談『能はこんなに面白い!』を楽しく読んで沢山の付箋を立てたのだが、その中の1つに内田氏の談として「能の一番いいところは市場原理と無縁であるところ。客の入りを気にすることなく舞台で演じられるものの質だけが純粋に問われている。これが最大の強みだ」というのがある。現代の芸術は悲しくも採算度外視というわけにはいかず、世界一流と呼ばれるものほど金儲けの対象だ。いや、映画業界などは一流どころか二流三流の作品が強力なスポンサーの宣伝効果で大ヒットしているわけだから、売る方の商魂もさることながら見る方の見る目のなさにもがっかりで、結果的に需要と供給は低い次元でバランスがとれていると納得するしかない。
EM仲間の友人曰く、「どうせあんたは見てないだろう『アナと雪』の歌はストレスで引き籠りの姉が自分らしさを取り戻すっていう内容なんだけど、ストレスの原因のいちいちが共感できない。ありのままとかいってそんなの初めからすればいいじゃんって感じ。なんでこんな映画が売れるのか不思議だ」。友人はB型であった。私もなるほどこの種の話はうつ病シェアNo.1のA型向きだと納得したが、繊細な心の襞とは無縁の国である本国アメリカでもこの映画は本当にヒットしたというから、かの国のステロイドな社会風潮は下火になってきたということか。ドラえもん解禁も画期的なニュースだったし、世界は全体的に軟化傾向なのやもしれぬ。いずれにせよ宇宙人はこの映画は見ない。只でも見ない。2時間あったら別の事をするよ。

前回の続きで、物質的に豊かになった日本では消費者の関心を何とか引こうと様々な「無料」キャンペーンを編み出してきたが、これに慣れた消費者はモノの価値を判断する力が低下した。1回目は無料だったのに2回目から有料なら2回目からはいらない、というわけだ。倹約は人の頭を活性化させるが、無料かそうでないかの判断に頭は使わない。通常なら商品の完成までにかかった苦労や費用や時間を考慮してその値段が妥当かどうかを買い手が判断するものなのだが、客寄せとはいえ無料を連発するとその商品に費やされた労苦があたかもゼロだったかのような錯覚を覚えるので、定価を聞くとそれがどんなに出血価格だったとしても高いように聞こえてしまう。商品制作や開発の努力は報われない。身を粉にして働いている労働者の生活が一向に良くならないのは国の経済政策が悪いのではなく、無料や低価格に飛びつく消費者のいじましい根性が原因なのである。その商品の制作に携わった人を前に「無料にしろ」と迫っている醜い己の姿を思い浮かべよなのだ。

解決策としては、物の価値を見極める目を持つこと、これに尽きる。一般消費品から芸術作品まで、その制作や完成までにかかった努力がいかほどであったかと、それによって自分がいかほど満足したかが拮抗していればよいわけで、自分の満足が上回るべきだと考えるから間違うのだ。便宜上商品にも芸術作品にも値段がついているけれど、「高い」といって敬遠する人は、その商品なり作品なりに自分が見合っていないことを知るべきだ。ましてや無料なんて、無料に飛びつく人間は自分自身の価値も同じく無料なのだと思い知れ、なのだ!
そうしたわけで『アナと雪』には一文も払うつもりのない宇宙人は、市場原理から遠く離れた能やソクーロフ作品にはすんなり紙幣を差し出すのである。まあ数日断食すれば挽回できるしね。無料に飛びつく輩に限ってダイエットに失敗しているのだ。その無駄な食欲をまず無料にしろなのだ。

今日はナノダ節が冴えた宇宙人だが、最近近所にOKなるスーパーができた。低価格・高品質が謳い文句で、おそろしいほど余計なコストを省いて低価格を実現している。店は病院のように白くのっぺらぼうで、警備のコストを下げるためか出入口が極端に狭い。添加物なしが売りの食料品は陳列が一律で、カートを押した顧客が通路を一直線に突き進むようにできている。驚愕したのは刺身売り場で、鯛やマグロの刺身が何の飾り気もない白いトレーに単独で載せられている。ツマもバランもなく立体性のない刺身の盛付けを初めて見た。さくら水産で白子がプラスチック容器に盛って出てきた時と同じ衝撃である。まあどうせ家できれいなお皿に盛り直すことを考えればこれで充分なのだが、思い切った戦略である。ひき肉なんてトレーさえ省いてビニールパックだし。エコまっしぐら。
でも頂けなかったのは一杯用ドリップコーヒー。コップのフチに引っ掛けるタイプのフィルター付きコーヒーが20杯分入ったお得パックが安かったので試しに買ってみたら、中身は小分けになってなかった。この種の一杯用って小分けにビニール包装してあるから風味が保てるんじゃないの? これだと残りが空気に触れてしまうのだ。夏は暑くてたまにしかコーヒーを淹れないので長期保存用に買ったのに、失敗である。安さに目が眩んだな、宇宙人。

このOKスーパー、建物の建設中も開店前も家にチラシが届くでもなかったのでいつオープンしたのか気付かないくらい宣伝費をかけていない。しかし大手スーパーが出店できないような住宅地の裏手にひっそりと営業を開始し、その安さで大手から顧客を奪いつつある。わが生命線の1つであるヨーグルトの売り場には八ヶ岳や淡路島のブランドがあるから関西の会社かと思ったら、東京の会社であった。最近あちこちで出店が目立つ。
下町のわが家ではまだ地元の商店街ががんばって営業を続けており、野菜や惣菜はまだそっちの方が価格的に強いのだが、肉屋やミニスーパーはOKと競合して負けるかもしれない。OKが当地で生み出す雇用より商店街で生きている人間の方が多い。彼らの生存のためにはなるべく商店街で買い物をするべきなのだが、どこよりも安いヨーグルトとかつおのたたき、何より五個入り100円の焼きたてクロワッサンに心を奪われた宇宙人は、当面OK通いが止みそうにない。なにしろ連日暑くて、商店街より近くにできたOKは便利なのだ。いや、無料や低価格を非難したばかりだというのにこれではいかんのだ。もう少し涼しくなったら出不精も解消して遠出できるようになるから、商店街よ、しばし耐えてくれ。
[PR]
by hikada789 | 2014-08-12 13:03 | 宇宙人の読書室 | Comments(0)