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土星の裏側

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宇宙人と呼ばれた人達の診療所

松を考える (No.599)

No.594で触れた「松の神聖視が外来文化である」点について引っ張ってみる。松といえば日本古来の文化を象徴するような樹木である。松の廊下とか、松竹梅とか、松風とか門松とか盆栽とか、和の風景としては定番だ。能舞台の正面の背景は必ず松の古木が描かれているし、歌舞伎の書き割りも桜や紅葉でなければ松が主流だ。縁起がいいし、形もよい。
しかし宮脇博士によれば、植生学的には日本の主流樹木はタブの木などの肉厚な広葉樹で、どちらかというと南国の気候に適応した強い植種だ。タブの木といわれてもピンと来ないが、今でもそのままの緑を残している神社や雑木林に行くとあちこちに生えている、まああまり見映えのしない濃い緑の丸い葉を沢山つけた平凡な木といえば何となく思い浮かぶ。葉が椿のように光沢があって肉厚なのは、降雨に耐える水分保存が利く形態だからだ。そういえば松は針葉樹で、この種族は一般に乾燥気味の寒冷地仕様である。温暖湿潤の日本の気候とは繁栄エリアにズレがある。

民俗誌からの意見によれば、古代中国では天子の墳墓に松を植える習慣があったという。そして身分の高い諸侯の墓には柏を植え、それ以外の庶民、といっても墓を作ってもらえるのはそれなりの長者であるが、庶民の墓には柳を植えた。だからこれを受けた日本では松に神聖な意味が加わり、柏餅が縁起物になり、柳といえばヒュードロドロと幽霊の好む木陰となったと考えられる。ここにタブの木の出番はない。なるほど。そもそも日本固有の文化ではないわけだ。
江戸時代などの古地図を見ると、時々一里塚に混じって「古墳」と名札のついた丘の絵が目印代わりに描かれているのだが、そのてっぺんには松の木がちゃんとイラストされていて可愛い。江戸時代の人々は古墳といえば松が植わっているものとの共通概念があったわけだ。確かに松の木は見た目も特徴的で、松ヤニなど他の樹木には見られない特質もある。しかし我々がパッと思い浮かべる松の姿というのは、能舞台に描かれるような曲がりくねった枝振りのものだし、盆栽もこのタイプが珍重されている。しかし松は建材にもなる種類があり、建材にするには幹が長くてまっすぐである方が良い。

この夏の乱読書の中に『チェルノブイリの森』という3.11の数年前に書かれたチェルノブイリ・ルポがあって、偶然見つけた記述なのだが、チェルノブイリの現場つまりウクライナとベラルーシの国境辺りで居住禁止となっている汚染地区の森は、人間がいなくなったお蔭で結構な繁栄を謳歌しているものの、本来まっすぐな高木で、幹に対して枝が直角に生えるはずのヨーロッパアカマツが、放射能の影響であまり背が伸びず、枝がバラバラの方向へ曲がりくねって生えているという。報告者はこれを悪い影響と捉えているのだが、我々から見るに、それって能舞台に描かれている松の形ではないか。

そこで宇宙人のホニャララ夢想。松の木は神仏や霊など何らかの霊的作用を受けやすい霊木であり、作用を受けると本来の性質が歪められて幹や枝が曲がる。この曲がり具合で古代人は霊力の強さや吉凶を測った。本場中国では廃れてしまったが、日本に入って来るとこの考えが発展を遂げ、より吉祥な形が研究され、それが絵画の世界で広く用いられた。更には造林術へと発展し、盆栽に至る。我々素人には盆栽の優劣は見極め難いが、通人には右の盆栽が100万で左の盆栽が1000万だとひと目で判別できる。何らかの法則性があるわけだ。
一方ヨーロッパではキリスト教以降自然との対立姿勢が強固となり、奥深い森林に分け入ると陽光も届かず、不気味な黒い樹木がぐねぐねと曲がって人食いお化けのような形相をしている。そういう姿が童話や絵本で定番となった。だから曲がりくねった樹木というのは悪なのだ。

ええと、どういう方向へ結論を持って行くのかというと、霊的作用というのと放射能の影響というのは紙一重といったところです。共通項は「目に見えない威力」かな。そして日本の文化としては曲がりくねった樹木を恐れない。それどころか神聖視している。だから日本人は放射能とは折合う余地がありそうである。こんなところかな。いま一生懸命除染作業してくれている人々にはエールを送りたいが、それとは別に、チェルノブイリで繁茂している森についても目を向けその意味を真剣に議論すべきではないか。
ロシア語の諺に「我らがいない場所が良い場所」というのがある。意味としては「隣の芝生は青く見える」、つまり自分のものより他人のものの方がよく見える、羨ましく思われる、ということなのだが、字義通りに解釈すると、「人間がいない場所がいい場所」ってことに。こっちの方が深刻な真理を突いている気がします。
by hikada789 | 2014-08-29 13:35 | 宇宙人の読書室 | Comments(0)

by 土星裏の宇宙人