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土星の裏側

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宇宙人と呼ばれた人達の診療所

『パーム』が怖いわけ (No.688)

『パーム』シリーズ最新刊第37巻の何が恐ろしいって、昨今社会問題となっている不妊の増加が統計上の錯覚ではなく事実であり、しかも原因は単なる生活習慣や環境の変化ではなく人為的に操作されたものであるという仮説をぶち上げた点だ。この物語は連載の始まった1980年代半ばの米国を描いており、登場人物たちは現代のようなネットやスマホが普及する前の社会をリアルに生きている。シリーズ中盤では国際環境会議を舞台に環境保護を巡る闘争を取り上げていたが、そのシリーズが連載されていた頃は話が怖いとは思わなかった。話がでかくて身近に感じられなかったからだ。だが今回は違う。話は相変わらずでかいのだがすごく身近なのだ。
日本製を愛する宇宙人は農産物もなるべく国産を買うようにして国内生産者へのエールを心掛けているのだが、財布が薄いので国産であろうがなかろうが安価な製品しか買えない。従って健康と骨格を維持するためのタンパク源は卵と納豆が頼りである。国産豆の納豆は若干割高とはいえそもそも安価であるので、買う時はちゃんとラベルを確認して北米産の「遺伝子組み換えでない」のうっとうしい表示のものは選ばないようにしている。TPPが締結された暁にはこの表示がなくなるとか言われている。北米産大豆はいずれ遺伝子組み換え豆にすり替わる可能性大なので、せめて今から国産豆を消費して国内生産者が離農しないよう微力ながら支援するしかない。もちろん日本人農家の、遺伝子組み換え大豆に対する生理的嫌悪感からこれを今後も扱わないという倫理観に期待している。もし彼らが利潤を追求して倫理を棒に振った場合は観念するしかないが、平気で棒に振る欧米人の価値観に冒されていないガラパゴス・スピリットに一縷の望みを懸けているのである。皆さん、納豆は国産豆で!

とまあ日常はこれくらいしか考えてこなかった遺伝子組み換え作物なのだが、パーム最新刊で主人公が語るところによれば、研究の最終目標を人類の淘汰と定める優生学研究所があって、選ばれた人間と必要な人間だけを残してその他を削ぎ落すための研究をやっていると。その方法は集団殺害と断種。集団殺害はホロコーストで有名なナチスがやったことだが、いろいろな意味でショックが大きすぎる方法なので、もっと人知れず大人しく遂行しようというわけで断種、つまり故意に不妊を誘発させて人口をコントロールする研究が進められている。「農薬散布や集団予防接種を利用して、長い期間をかけて秘密裏に化学物質を地域全体に浸透させることができる。不妊は世代をまたいで少しずつ広がり子供の数が減ってゆく。作為的と気付く者はいない。将来的には遺伝子組み換えによって食物そのものを不妊薬にすることもできる。」

戦慄のセリフです。だってどれも身近な問題なのだ。宇宙人の近辺でも不妊治療に悩む夫婦の話は聴こえてくるのだ。農薬を嫌って有機栽培にこだわるお宅もあるし、子宮頸がんワクチンの弊害はさすがに報道でしか聞かないが、日本でこうも嫌われている遺伝子組み換え作物がいくら安いからといって北米で廃れずセールスを展開していることに、不思議を感じてもなぜかを追求することはなかった。この点も主人公は鋭く指摘する。「みんな知っていたはずだ。世の中は何かがおかしいとみんないつも言っているだろ。見て見ぬふりをしているだけだ。」
物語の今後の展開は、この研究所を含む巨大産業グループと主人公が率いるグループとの戦いになると予想されるが、こんなに話を大きくして収束まで持っていけるのかという懸念と、遺伝子組み換え作物に対するこうした見解が作者独自のものなのか誰か別の人物のものなのかはさて置き、こんな意見をぶち上げてそれこそ都合の悪い人々の目にとまり、よもや作者は暗殺されやしないかと心配になってくる。

皆さんはただのフィクションだとお笑いになりますか。でも私は最近佐藤優氏推奨の帯をつけた水野和夫という経済学者の『資本主義の終焉と歴史の危機』という本を読んで、現在の資本主義の行き着く先は資源のぶん捕り合いであり、豊かさ=経済成長という信仰をやめない限り資本が自己増殖過剰を繰り返し、我々の子孫が受け取るはずの富も資源も食い尽くして早晩崩壊するだろうと予言するのに共感を覚えたので、もしこのシナリオを脱したいなら、究極的には人口を半減させるくらいしないと、エネルギー資源どころか食べ物さえ足りなくなるという想像は容易につく。すると人口コントロールを断種という手法で敢行することは、あながち夢物語でもないのでは。事実遺伝子組み換え作物は安価であり、従来の自然食品や有機栽培製品は高価なのだから、貧乏人は安い方を買って食べるしかなく、結果的に金持ちだけが健康な子孫を繁栄させるという流れに。そしてこの発想は、水野氏がヨーロッパ文明の成立ちから紐解いた西洋人の活動理念に一致している。私が欧米人の根性を嫌悪する理由はまさにこの点にあるのだ。
水野氏の見解は次の機会に譲るとして、我々は自分たちの本能の声をもっと信じてあげなければならないようです。みんなおかしいと思っているのに、誰かの宣伝や隣の人の行動に惑わされて「そういうものかな」と流されてしまう。流されてはいかんのだ。棹を刺すのだ。本能は何が危険かよく知っているのだ。耳を傾けるのだ!
by hikada789 | 2015-03-31 16:52 | 宇宙人の読書室 | Comments(0)