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土星の裏側

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宇宙人と呼ばれた人達の診療所

ユヅル効果で晴明再びか (No.777)

フィギュアスケートの羽生君が前人未到の300点越えスコアを叩き出した。あまりに完璧な演技に、陰陽師にあやかって式神でも使役していたんじゃないかと疑いたくなるほどであったが、ロシア語放送の実況ではもしかしたらタラソワさんかなという女性の解説者が、演技終了直後の羽生君の表情を捉えて「なんという幸せ(者)でしょう」を連発していた。非常にロシア人らしい目の付け所なのでご紹介しよう。

ロシア語は「暑い」とか「寒い」とか「すばらしい」とかいった形容句を誰が感じているかを、与格という「与える」形に語形変化させる文法を持つ。私が暑いと感じるのは神様がその暑さを私に与えているからだ、というニュアンスであり、あらゆる感覚や感動は与えられるものであるという一貫した思想に則ったものである。従って感覚や感動の源である幸や不幸、才能といったものもまた神様なり超自然の存在なりが一方的に与えるものであり、才能を与えられた者は当然幸福者ということになる。本人は努力しただろうけど、やはり最終的に幸を与えるかどうかは神様次第。その才能を遺憾なく発揮できた羽生君は、神様のお目に適ったので、そのことを「彼は幸せ(者)だ」とロシア人は表現したのである。才能があることが幸せなのではない。理由は定かでないが神様が味方についてくれたことが幸せなのである。ロシア人の受け身で運命論的なメンタルは、かように文法からも窺えるのだ。

比較のためにイギリス英語放送も見てみたが、まあ普通に感嘆した後、何か喋らねばならぬと思ったか、音楽の選択がすばらしいという話になって、終盤のステップ部分を「サムライらしい戦闘的音楽」とか述べていた。安倍晴明が生きたのは平安時代だ。サムライはまだいない。英語圏の連中の知識の浅さに鼻白む宇宙人。羽生君は近年稀にみる道徳の高い子なので、日本人が広めたわけでもない日本についての間違った他国の認識を改めるのに一役買ってもらいたい。

ところでユヅル効果を狙ったものかどうかは判らぬが、能楽界の重鎮、梅若玄祥が『安倍晴明』なる現代能をやるらしい。共演は野村萬斎。羽生君がフリー演技に使用した音楽の出どころである映画『陰陽師』で主演を務めたのは10年以上も前だが、今回は本職の狂言師として出演する模様。
業界最大手である観世流は能の新作に意欲的で、数年前には同じく玄祥師が美内すずえ原作漫画『ガラスの仮面』にまつわる『紅天女』を新作披露したし、今年は『ロミオとジュリエット』をどこかでやっていた。現代能の特徴は詞章を現代語にしている点で、能を知らない人にも判りやすくという趣旨らしいが、能楽師にとっては普段から古文で謡い慣れているぶん却って謡いにくいという。『安倍晴明』は妖怪退治がテーマであろうから『土蜘蛛』ばりにクモの糸でも派手に撒き散らすやもしれぬ。初演は大阪なので、評判が良ければ東京にも来るであろう。ユヅルの若いファンたちが少しは自国の古典に目を向けてくれたらいいのだが。

-----現代能「安倍晴明」-----
◆日時:2016年2月27日(土)
◆場所:フェスティバルホール(大阪)
◆出演者:梅若玄祥(芦屋道満/安倍益機)、野村萬斎(安倍晴明)、大空祐飛(葛葉姫)ほか
by hikada789 | 2015-12-01 17:14 | 宇宙人の能稽古 | Comments(0)

by 土星裏の宇宙人