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土星の裏側

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宇宙人と呼ばれた人達の診療所

全品だいたい100円 (No.835)

ウチヤマが負けた。あう。わが大晦日の愉しみをどうしてくれよう。敗戦してタイトルを失ったというのにまだエンジンがあったまっていなかった内山は、内心のショックがなかったはずもなかろうが五分後には放送席に来て冷静に敗因を分析、コメントした。これだけ落ち着いているとなぜ負けたのか判らなくなるほどだが、物理的に弱くなったというわけでもなさそうなので、もしかしたら大晦日は三浦とのマッチが組まれるかもしれない。
三浦とは以前対戦して内山が一度ダウンを奪われているが、内山の鉄あれいパンチを浴び続けた三浦にドクターストップがかかって内山がタイトルを防衛した。その後三浦は別の団体で王者となったので、両者の王座統一戦が期待されていたのだ。どちらが負けても日本人にとって残念な結果となるため再戦が先送りにされてきたが、内山がタイトルを失ったからには障害はなくなった。大晦日にやってくれたら嬉しいのだが。

内山の衝撃の王者陥落に宇宙人がそれほど落ち込まなかったのは、考え事をしながら観戦していたからだ。少し前にリサイクル衣料の掘り出しにはまって、一着100円をいいことにそのまま着れるものから要リメイクものまで持てるだけ持ち帰ったのだが、買い過ぎてたんすに入りきらず難儀していた。死ぬまで足りる分量を買ったのでこれ以上はやめようと心に決めた矢先、邪悪なる商店街が今度は和服リサイクルを始めた。店先のワゴンには「全品だいたい100円」の文字が。だいたいって何だ、とつい近寄るとまさしくピンキリの着物や小物が盛りだくさん。宇宙人は最近レザークラフトを始めてカバンや小物の裏地を模索していたので、試作品に使えないかと掘り返したところ、なんだか高級そうな手触りが。絹だなあ。絹ですね。こっちの男物はざっくりしてるから浴衣かな、でも厚みがあって高そうなんだけど。100円ってどういうことかしら。戦利品は以下の通り。

・桜模様の絹の和服コート:二カ所ほど汚れあるが未使用と思われる。
・うす緑に水紋模様の絹の和服コート:そのまま使える美品。未使用。
・男性用浴衣:麻っぽい紺糸をバスケット状に織った生地。しつけがついたままの未使用美品。
・女性用ひも付き羽織り:ラフなデザインだが部屋着に使えるし、割とあったかい。
・綿の風呂敷:鶴を模した古典的な模様が一角に染め抜かれている藍染。ヤケあり。
・腰帯:両端に飾り房のついた新品。絹100%のラベル付き。
・和風ポーチ:長財布サイズ。日本の職人技が冴える未使用の美品。

レジへ持っていくと本当に合計700円だった。なんという扱いであろう。哀れな和服よ。あまりに安いので、もしかしたらお亡くなりになった方の処分品やもしれぬが、有難く再利用させてもらうとしよう。しかしクラフトの裏地に切り刻むのは忍びないほどいい生地だ。和服コートや浴衣はどなたか欲しい方がいたらそのままお譲りできます。コートは襟が四角いのでこのままでは能の舞台用にも使えないが、仕立て直しが利くなら宇宙人が使いたいくらいだ。舞台なら袴を履くので裾が短くても見えないし。ああもったいない。
もったいなくなく裏地に使えるのは風呂敷くらいで、腰帯に至ってはバッグの持ち手にしようかと思ったものの、どう考えてもわが手作りバッグの拙さが引き立つ高級品である。和風ポーチは持ち手がなく、平たい物しか入らないが、あまりに丁寧な仕事なので汚すのが忍びない。そうだ、レザーのカバーをつけてクラフト道具入れにしよう。ブックカバーの要領で脱着可能なスタイルにし、有事の際は和服の伴に戻るのだ。
というわけで頭の中をレザーカバーの図面が駆け巡る宇宙人。レザー生地の購入はきっとポーチ本体の100円を遥かに超えるであろう。高い買い物になったやもしれぬ。まあいいか、楽しいから。と考えているうちに内山がダウンしたのであった。
by hikada789 | 2016-04-28 14:08 | その他 | Comments(0)

by 土星裏の宇宙人