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土星の裏側

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宇宙人と呼ばれた人達の診療所

「集会はこちらです」 (No.919)

No.917で案内した「イスラーム映画祭2」の初日に行ったら大盛況でチケット完売状態だった。二本見る予定が一本だけになってしまったが、その一本の『バーバ・アジーズ』(2004年チュジニア・欧州合作、ナーセル・ヘミール監督)はこの後19日(木)18時半に一回しか上映しない。イチオシです。わがホニャララ小説『メタフォーラ・ファンタジア』を読んだ方からは「続編を書かないのか」というご意見を頂いたが、『バーバ・アジーズ』を見れば十分かもしれません。それぐらいコンセプトは似ている。正直「先にやられてしまった」感がありますが、素晴らしくメタファーで、今どきのイスラムな作品でした。といってもISとかとは全然関係がなく、今もなお行われているイスラムの不思議な音楽祭りの話です。

ネタバレしない程度に語りますと、主人公のアジーズ老人と孫娘イシュタルが「集会」を目指して砂漠を歩いていく。集会の場所は不明だが、道中出会う人々もしばしばその集会とやらを目指しており、一緒に歩いたり道で別れたりする。アジーズ老人は孫娘に昔話を聞かせるが、その昔話の登場人物を演じる役者と道中出会った人物の役者をかぶらせ、時間軸をつないでいる。ロケ地はチュニジアの砂漠とイランの遺跡を行ったり来たりして架空の世界を演出し、会話も私が聞き取る限りではペルシャ語が主体で、出会う人によってはアラビア語で話し、歌や詩はウルドゥー語といった具合に無国籍感を醸している。イスラム教徒は生涯イベントとして聖地巡礼を慣例化させているが、ここで描かれている「集会」は聖地ではないようだ。では一体なんなのか。

映画の上映後に行なわれたトークセッションでは、サラーム海上なる中東ライター(日本人)が「集会」の正体を教えてくれた。それは秘密の音楽祭ともいうべきもので、通常イスラム教は娯楽としての音楽やダンスに否定的で、戒律の厳しい国では禁止している所もあるくらいだが、そうしたお堅いメインストリートからは外れたスキ間な人々がスーフィー(神秘主義者)となってイスラム音楽を継承・発展させてきた歴史があり、その文化は今もなお世界の各所でこっそりと実践されているという。海上氏はそうした音楽祭を探しては実地検分に赴き、その隠れた音楽シーンを記録したり紹介したりしている一種のジャーナリストで、極めて幻想的に描かれている映画の中の「集会」は作り話ではなく、今も現実に存在しているのだと指摘する。

イスラム・スーフィズムというのは宇宙人が史学生の頃結構魅了された世界で、イスラムの歴史的事件に大きく関わったこともある運動なのだが、実態はなにしろ秘密なのでぼんやりしてよく判らず、卒論のテーマにはできなかった。そのボンヤリ感を『メタフォーラ』にちらほら書き込むのがせいぜいだったが、今回実態があることが知れ、俄然その集会とやらを見たくなった。
海上氏の情報によれば、一番近いところで今年2月にインドのナゴールという都市で3日間の缶詰フェスがあるという。一昨年参加した海上氏の話によれば、ナゴールにあるインドの王宮遺跡をとある大富豪のマハラジャが丸ごと買い取って(あう、ファンタジー)、500人ほどが滞在できる施設に改築し、スーフィー音楽祭を企画開催しているのだそうである。聴衆としての参加費は当時で約20万円。3日間の豪華宿泊と食べ放題、24時間シャワーと清潔なトイレ付で、音楽は昼夜の別なく3日間聴き放題。曰く「フジヤマ・ロックよりは安いでしょ」。そうだな、宇宙人は人工的な機械に囲まれたロックには関心がないから世界各地の音楽フェスに行こうと思ったことは一度もないが、スーフィー音楽はつまり『メタフォーラ』で描いたような古典音楽をベースに現代まで引き継いだ進化途中の生音楽なので、もちろん電気機器は使わず音量も小さい。近くにいる数十人にしか楽しめないが、その分密度は濃厚だ。いいな行きたいな。HPは発見したがやはりただの人は入れない感じ。能ミュージシャンです、とか嘘ついてアクセスしたら入れてくれないかな。

ところで『バーバ・アジーズ』では最終的にアジーズ老人が死出の旅に出るのだが、見ず知らずのスーフィーたちはそれを待ち構えていて、彼を墓所に誘導する。「集会」はそのまま老人の墓標になるのだが、こうしたミステリアスで啓示的な転化はスーフィズムの十八番であるらしい。しかもこの種の出来事は現代にも生きている。ある日本人の老教授が中東の某観光都市を歩いていたら、突然見知らぬ現地人に「集会はこちらです」と声を掛けられ、素直について行ったら映画に出てきたような音楽集会に案内されたという。この教授は日本人には珍しく縮れた髭を長く伸ばし、映画に出てきたスーフィーの老師然としていたため、遠方からはるばる集会にやって来たベテラン修行僧と勘違いされた模様。いいないいな、私も「集会はこちらです」とか言われて神秘の世界に導かれてみたいものだ。
by hikada789 | 2017-01-16 16:54 | 宇宙人の空飛ぶじゅうたん | Comments(0)

by 土星裏の宇宙人