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土星の裏側

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宇宙人と呼ばれた人達の診療所

能の中のあべのハルカス (No.979)

『松虫』の謡稽古をしていて気付いた。「〽阿倍野のかたに帰りけり。阿倍野のかたに帰りけり」。他にも阿倍野の名前が連呼されている箇所があるし、舞台は大阪である。もしかしてこれはあべのハルカスのある場所のことですかと先生に問うたら、そうだという。つまり東京ではスカイツリーのせいで業平橋という能にもゆかりのある、歴史深い地名(駅名)が忌々しくも薄っぺらなカタカナ英語に上書きされてしまったように、大阪でも謡曲に歌われた阿倍野の原は、周囲の景観を壊す背丈の高い薄っぺらな商業施設と無機的なカタカナに上書きされてしまったというわけだ。アベノの音が残っただけでもまだましか。宇宙人は大阪の地に疎いので、『松虫』を稽古しなければあべのハルカスの元ネタが阿倍野の原であることも知らないままだったよ。日本人よ、どこの国にもあるありきたりな商業施設ばかり建てて、代わりに自分の国にしかない歴史というオリジナル性を振り捨てることで、一体何を得ようとしているのだ。「開発」といいつつ「陳腐化」している事実に目を向けるのだ。

電車に乗って吊革につかまっていたら、前の座席に座る乗客がずらりと手元のスマホを眺めていた。その顔がどれもあまりにも同じ表情で、あまりにも『食糧人類』冒頭の肥満したエサ人間の顔にそっくりだったので愕然としたよ。ただ一人、一番遠くの社会人男性だけが文庫本(字面からしてたぶん小説)を読んでいて、本には焦げ茶色の革カバーがかかっており、膝の上のカジュアルバッグは本革なのであった(もう革を見分けられる宇宙人なのだ)。同じ手元に目を落としていても、スマホを眺める目と本を読み進める目とでは動きが違う。前者は凝視するか泳ぐかし、後者は微妙に眼球が上下するが静謐だ。脳内活動の違いが雰囲気に反映するのだな。この遠くの男性に思わず声を掛けてお友達になりたくなったよ。そしてエサ人間然としたその他の乗客が『食糧人類』のように巨大イモ虫の餌場にくべられてしまったとしても、心痛むことはないであろうと思う宇宙人なのだった。

夏の演能会のお知らせです。
(1)座・SQUARE第20回記念公演
◆日時:平成29年7月17日(月・祝)13時
◆場所:国立能楽堂
◆演目:能「翁」「朝長」「乱~双の舞」、狂言「佐渡狐」、仕舞「羽衣」「邯鄲」
◆入場料:4,000円~(全席指定)
◆見どころ:宇宙人の先生が「乱」でツレをされます。

(2)第33回能楽金春祭り 路上奉納能
◆日時:平成29年8月7日(月)18時
◆場所:銀座金春通り。
◆演目:恒例の路上能。立ち見は無料見物できます。
◆関連無料イベント:8月1日から6日まで、子ども能体験教室や能楽師による講演(定員30名先着順)、能楽写真展示が行われます。場所は銀座8丁目のタチカワブラインド銀座スペース。

(3)五星会ゆかた会
◆日時:平成29年8月20日(日)10時半~16時頃
◆場所:国立能楽堂研修舞台
◆内容:金春円満井会社中の演能会。素人弟子も多数出演。
◆入場料:無料。飲食及び撮影禁止。
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by hikada789 | 2017-07-06 10:20 | 宇宙人の能稽古 | Comments(2)
Commented by 逢坂住子 at 2017-09-09 22:43 x
いつも鋭い視点の記事を楽しく拝見しております。阿倍野は駅前周辺は軽薄な感じにガラリと変わってしまいましたが、まだレトロなチンチン電車も走ってますし、少し外れると下町そのものですよ。私は能は分かりませんが、『松虫通り』などの地名も残ってますし、安倍晴明神社がひっそりと佇んでいたり、中々奥の深い町です。
Commented by hikada789 at 2017-09-10 13:03
東京も一等地である銀座からほんの300mも離れると、ビールケースを椅子とテーブルにして路上にはみ出しているような居酒屋がガード下に並んでいます。少し歩けばガラス張りの高級ブランド店が立ち並ぶ界隈です。こうした抱き合わせが私は結構好きですね。隠し事がない感じ。余所の国では自国の発展ぶりを主張したい余り、この種のスラムを外国人に見せまいとしていますが、堂々と見せた方が成熟した感じがします。着飾って隠してどうかなると思うのは子供の感覚です。