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土星の裏側

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正教会の刺青 (No.1123)

No.1120で案内した「ロシア映画祭」の映画を数本見て来たが、昨年同様おかしな和訳が引き続き使われていて興を削がれた。全作品がそうではないが、どうして正しい和訳を付けられる翻訳スタッフに全作品を任せて字幕を依頼しないのか。ここでのおかしな和訳とは、明らかに日本語ネイティブでない人間が自分の日本語の拙さに気付かず並べた字幕という意味だ。そのため男女や老若で異なる日本語の語り口がめちゃくちゃに交錯しており、字幕の出る数秒の間にどの話者のセリフなのかが瞬時に特定できず、誤字もあって何度も違和感を覚えるから結局作品に集中できない。このイベントにはユーラシア映画協会だか何だかいう日本人の映画専門家が監修しているはずなのだが、ちゃんとチェックしていないのか、無料イベントだから仕事に熱を入れないのか。そういう印象が二年連続で続いている。
貶しついでに、上映作品も大したことない。ロシア映画といえば往年のエイゼンシュテインやらタルコフスキー、最近でもソクーロフやゲルマンを思い起こすファン層は未だ厚く、資本主義導入後の映画作品が「小粒」になってしまったことに落胆する観客が途中で席を立つ姿も見られた。私でさえ途中で帰りたくなったが、当の監督が舞台挨拶に来ているので、申し訳なくて最後まで見ていただけだ。これが現代ロシア映画界の現状というわけだ。嘆かわしいが、こうした現実を知るにはよい機会ではある。

実はこの映画祭と時を同じくして、先週赤坂かどこかでモスクワ・フェアみたいなイベントをやっていた。東京はモスクワと姉妹都市だが、急にこういう小型フェアをやるようになったらしく、しかし私が情報をキャッチした時は既に終わっていた。それでもその関連イベントなるロシア現代アニメ上映会を、当地の専門家の解説を交えて東大でやるというので、そっちには行ってきた。なかなか良かった。
ロシアアニメといえば筆頭は「チェブラーシカ」だろうが、あれはソ連時代の産物で、いわゆるセル画アニメではなく、人形アニメだ。手作り人形を舞台装置に並べ、一枚写真を撮り、ちょっと動かしてまた一枚撮り、という気の遠くなるような反復作業で数十分の動画に仕上げる。製作者の根気がモノを言う手法なので、大量生産が利かず、資本主義の今日のロシアにはもはや作れまいと思っていた。しかし今回紹介された11本のうち、半分くらいはこのタイプだったから驚きだ。もちろん長編ではない。しかし金儲け目的ではない芸術作品扱いの、ソ連時代の精神を受け継ぐ作品がいくつか見られ、聴衆に深い感銘を与えてくれる。

何よりもまず画が美しい。一コマ一コマが絵画のように手が込んでいて、子供向けデフォルメにも拘わらず、見ていてウットリするほど人形なり背景なりが美しい。こういう画面に日々向き合って教育されれば、子供達も健やかに育とうというものだ。一方で、今日のロシアのテレビで見られる一般的なアニメ作品というのも紹介されたが、これは大量生産されるセル画やデジタル画で、日本や欧米の使い捨て的アニメ作品とさほど変わらない。当地ではテレビで放映されるこの種の軽量アニメの方が認知度が高い。上述のような芸術性の高い重厚な作品は日常生活ではお目に掛かれず、映画フェアなど特別なイベントに足を運ばなければ堪能できないとの解説であった。なるほど。

ところで、紹介された11本のうちいくつかは芸術性の高くないナンセンスでシュールな作品であったが、その中で楽しい発見をした。セリフのないドタバタ喜劇の作品に登場したマッチョなヤクザを表すキャラの二の腕に、ロシア教会の刺青が描かれていたのだ。三つのクーパル(ネギ坊主屋根)を冠した典型的な正教会の建物の図柄で、これがロシアにおけるヤクザの典型コードというわけだ。日本だったら黒のグラサンに頬のキズとか、両肩にべったり彫られた刺青とかだが、当地では正教会のワンポイント・タトゥーで万人がピンとくるらしい。こういう表現も、ソ連時代はありえなかった。時代と世相が伺えるのだ。

by hikada789 | 2018-10-25 11:23 | ロシアの衝撃 | Comments(0)

by 土星裏の宇宙人