人気ブログランキング | 話題のタグを見る
ブログトップ

土星の裏側

doseiura.exblog.jp

宇宙人と呼ばれた人達の診療所

脳は4までしか数えられない (No.1132)

日本人が英語を学習する際、名詞が単数か複数かで文法が違ってくるのをいちいち面倒だと思ったり、子供の頃は三単現のS を付け忘れて点数を引かれたりして、日本語は単数も複数も関係なく意味が通じるのだから英語のこのルールは要らないのではと疑問に思ったことはないですか。宇宙人は思っていたし、そもそも無駄を省きたい性格なのでこういう英文法には納得していなかったこともあり、英語は今も昔も好きでない。しかし面白いもので、その後宇宙人はロシア語なんぞを学び、英語より遥かに複雑で面倒で、あってもなくてもいいような文法上の決まり事にアヘンの如く中毒していくようになる。それはひとえに、ロシア語文法における音楽性の優位に魅せられたからだ。ロシア語は正しい文法で話すだけで脚韻を踏めるので進んで文法を守りたくなるし、煩雑を理由にこの文法がなくなれとは露思わない。ロシア語履修者の皆さん、お判り頂けますよね。
そんなあってもなくてもいいようなロシア語文法の一つに、数詞がある。「1」だけでもアジン、アドノー、アドナー、アドニーと四種類あり、その後に来る単語によって正しく振分け且つ格変化させねばならぬのは勿論のこと、英語は2以上が一律複数形だが、ロシア語は2から4が単数生格をとり、5以上が複数生格をとって複数形を表すという、なんだそりゃなルールがある。このどうでもよさそうな煩雑さについていけない人は授業から脱落していくのだが、脱落しなくてもこの「2、3、4」ルールがなぜ存在するのか知る者はいない。そんなことを疑問に思う余裕のある学習者はいないからだ。いや、いなかった。しかし遂に現れた!

前回記事で案内したマニア向けロシア語講座「ロシア語の数詞について」で井上幸義氏が、よくもまあ隅から隅まで調べて答え(らしきもの)を見つけてくれました。その無料配布レジメは22頁に及び、古代ロシア語から教会スラヴ語まで網羅した文法変遷の比較表まで付録にしているというオタクっぷりに、笑いが止まらぬ宇宙人。規定の二時間で収まり切らずかなりの頁を割愛していた講演内容の全容を紹介したいところだが、あまりにホニャララ度が高くて専門的に過ぎるので、ここではとりあえずロシア語を知らない人にも読むに堪えるポイントだけご報告しよう。但し当ブログはロシア語履修者も読んでいるため、その人たちの向学のために後日詳細を小出しに放出していこうと思う。

結論から言うと、人間の脳はぱっと見だと物体を4個までしか認識できず、5個を越えると瞬時に数を数えきれない。この認知能力の限界がロシア語の数詞文法に反映されているということであった。
その傍証として、漢数字やローマ数字を例に挙げる。知っての通り漢数字は「一、二、三」と3までは横棒の本数で数を表すが、実は殷代では4もまた横棒四本で表す漢字が使われていた。漢数字「四」はその後の時代に統一使用されるようになったものなのだ。ともあれ5に至るともう横棒では利かなくなって「五」という文字が使われる。またローマ数字も「Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ」と縦棒の本数で数を表しているが、4もかつては縦棒四本で表しており、5になって初めて「Ⅴ」という5という数とは無関係の記号が登場する。
要するに、洋の東西を問わず、人間は4と5の間に明らかな境界を感じている。もっと端的にいえば、5以上は「多い」でひとくくりにして、いちいち数えたくない心理が働いているということなのだ。そういえば日本の算盤だって4を越えると5を表すアタマの玉に引き継がれるし、世界各地の古代の数の数え方にも、5を越えると別の印にして代用する例が多くある。十進法や十二進法以前の風習である。
余談だが、サルの脳というのは1から3までは脳の同じ部分で認識し、4以上になると別の部分で認識していることが実験によって判っている。現代では漢数字もローマ数字も4から「四、Ⅳ」という棒線ではない表記が始まっているから、人間の脳も4か5の辺りで「数えようか数えまいか」逡巡しているのだろう。

そこで再びロシア語の数詞に戻ると、人間の脳がギリギリ瞬時で判別できる数を4までとすると、1から4までは単純に数をそのまま表したアイコンであり、それ以上の5になるとシンボルとしての「五」や「Ⅴ」等で代用しないとおっつかない。そのシンボルには名前が付けられる。だからロシア語では5以上は名詞扱いになるのである。1は完全に形容詞扱いであり、「2、3、4」はその中間の中途半端な文法になっているのはそのためだ。なに、急にワケが判らなくなった? 判りますよね、ロシア語話者の皆さん。これで「ゴート/2ゴーダ/3ゴーダ/4ゴーダ/5リェート」の納得がいっただろう? いったよなあ!
いいんです、一般の読者には判っていただけなくて。コアすぎるし、全部を説明するととても書ききれない。興味のある方は宇宙人までご連絡下さい。井上教授の次の講演会をお知らせしますから、本人に直接訊いて下さい。

by hikada789 | 2018-11-18 18:23 | ロシアの衝撃 | Comments(0)

by 土星裏の宇宙人