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土星の裏側

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宇宙人と呼ばれた人達の診療所

金儲けが歪めた真実 (No.1158)

高校の時に自由研究発表の授業があった。全生徒が各自集めた資料をまとめてたった一人で登壇し、クラス全員に向けてプレゼンテーションするというもので、テーマは自由といっても15分ほどの登壇時間中聴衆を惹きつけるに足る内容でなければならず、質疑応答もあるので、そうなると大体社会問題をテーマに選ぶのが無難だった。資料が集めやすいし、記事なり書籍なりから有識者の考察や論評も引っ張って来れる。高校生の拙い頭で無理やり見解や結論を捻り出すよりも、既に見識あるオトナが出したそれを提示した方が権威もあるし、間違いもない。誰しも壇上で恥はかきたくはないのだ。
そんな授業である級友が「焼畑」を取り上げたことを妙に覚えている。焼畑とは熱帯に住む原住民が行っている伝統農法のことで、熱帯雨林を野焼きしてその灰をそのまま残して肥料にすることで作物を育てる。しかし当時は全世界で森林破壊や大気汚染が非難されていた時代で、焼畑は森林破壊も大気汚染も助長する非文明的で愚劣な習慣だ、というのがその発表の結論だった。勿論その結論を出したのは生徒ではなく、生徒が読んだ関連記事を執筆したオトナたちである。しかし高校生の宇宙人はこの発表をぼんやりと聞きながら、頭の奥で警報機がウルトラマンの胸のタイマーよろしく赤く明滅するのを感じていた。何の警報なのかずっと謎だったのだが、その謎が最近解けた。

真相はこうである。あの授業から30年経った今日、焼畑は環境破壊どころか地域の風土に適応した高度に優れた農法だというのが定説となっている。なぜそうなったのかというと、その後の研究により、熱帯の原住民の行う焼畑は、日本はじめ「文明国」が温帯で行っている常畑農法と原理的に大差ないことが判ったからだ。少し長くなるが理屈はこうだ。

熱帯では植物の生育が早い。ちょっと目を離すとすぐ草ぼうぼうになってしまうので、耕地として利用するなら植物が大きく成長する前に火を放って焼いた方が効率がいい。しかしあたり構わず野焼きするのではなく、耕地には休閑期が割り当てられ、焼畑はいくつかの段階を経て数年でローテーションするように工夫されている。つまり焼畑を終えた後の土地は不毛地になるのではなく、休閑期に耕地としての土壌力を回復するよう意図されているのである。しかもそうした休閑地を含む焼畑実施地は地域全体のほんの一部にすぎず、大部分は熱帯林のまま残されている。山地など耕作に不向きだったということもあるが、生態系全体を維持するにはそれ以上耕地を広げない方が良いという知恵が、原住民の伝統の中に息づいていたのだろう。このように焼畑は森林破壊も環境破壊もしてはおらず、逆に持続可能な生態系維持システムとして優れた農法だったというわけなのだ。

これに比較して、我々に一般的な常畑では植物は熱帯ほどにはすぐに成長しない。もたもたしてたら耕地一面が雑草だらけになって種も蒔けないということはなく、従って火を放って一気に除草する必要もない。その代わり、焼畑のように予め灰という肥料が撒かれてはいないし、耕地もずっと作物を作っているといずれ土壌が痩せてくるので、作物の成育中は肥料を余所から持ってきて撒かなければならない。肥料は主に里山から搬入される。農耕に適した養分を含む土や有機物、薪を燃やした灰や排泄物などは、人間の居住地とそれに隣接する里山にある素材で作られるのであり、もとより耕地にはない。そんな里山は従来広大な面積を誇り、耕作地の何倍も広かった。これは、熱帯における手つかずの熱帯林と焼畑耕地にそっくり比定できる。

つまり常畑は耕地があちこち移動しない代わりに、肥料を方々から掻き集める農法であり、焼畑は反対に耕地があちこち移動する代わりに、肥料はその場にある草を野焼きすることで足り、他所から掻き集める手間が省ける農法である。この差は地域の気候つまりは植物の成育速度によって生じた差であって、どちらが高度だとか文明的だとかいう話ではない。どちらも当地の自然風土に適した持続性の高い農法なのである。

ではなぜ30年前の有識者らは、熱帯における焼畑を非文明的で愚劣と評したのであろうか。それはまったくもって腹立たしいことだが、当時の有識者つまり先進国の自称文明人が、熱帯の原住民を自分達より劣る人種と頭から見做して、よもや生態系全体に配慮した持続可能な農耕技術など持っているはずがないという先入観から、焼畑を安直に森林破壊、環境破壊と結びつけたからだった。自分達こそ森林破壊をさんざんやってきたくせに、自分達の犯してきたこの種の間違いは、文明の遅れた民族が西洋文明に遅れる形で必ず同じ轍を踏む、というのが彼らの直線的世界観なので、よもや森林破壊せずに八方丸く収める農業の知恵を、半裸で生きる熱帯の土人らが備えていようとは露思い至らなかったのであった。

そして何よりそこには金儲けのための歪んだ作為があった。30年前は確かに熱帯林の破壊は急激に進行していたのだが、それは喧伝されたような焼畑のせいではなかった。焼畑は上述の通り休閑期はそっとしているのだし、そもそも耕地を取り囲む熱帯雨林を新たに焼いて耕地を広げるということもしていない。では犯人は誰なのか。
熱帯林をなぎ倒していたのは、そこに商品作物を植えて儲けようとした企業だった。当時は熱帯でよく育つアブラヤシやゴム、大豆などの商品価値が上がり、企業は安く手に入れられる熱帯林を次々に破壊しては商品作物を栽培して儲けていた。しかし森林破壊との非難の声が高まるにつれて、彼らは自分たちの事業の縮小を恐れ、森林破壊の罪を他者に転嫁した。それが焼畑だったのだ。「熱帯林を破壊しているのは企業ではなく、原住民である。焼畑を行う原住民の無知蒙昧な非文明性こそを糾弾すべきである」と彼らは喧伝し、それが有識者の口を通じて社会に広まった。焼畑は悪であるという定説が。そして高校時代の級友はその時の記事を集めて発表を行なったというわけなのだった。

森林破壊の元凶は焼畑ではなく企業だったという真相は、ここ30年の間続けられた丁寧な調査により明らかになったものだが、これが現在の定説となるまでは、焼畑に対する大いなる誤解と非難が世を憚ることなくまかり通っていた。原住民らの深い知恵を備えた伝統は、永らく愚行と称され続けたのである。これに腹を立てずして何に腹を立てるのだ。なにィ、腹が立たない? キサマ、宿命に印星がないのだろう!(※これは多分偏見です)

とまあこんな具合で、一事が万事、宇宙人は西洋人のものの考え方に不快の念を抱くのであった。あの発表の級友もとんだとばっちりだ。当時はそれが有識者の共通認識だったのだから仕方がない。高校生に何ができよう。
しかし自らは霊能者が持つような霊感は持っていないと認識している宇宙人に何らかの超常的感覚があるとするなら、まさにあの授業中に明滅した脳の中の警報機の類がそれだということになるのだろう。このウソ発見器ともいうべき警報機はこれまでにも何度もピコピコ光を放ってきたが、何に反応して光っているのか、今回の焼畑の真相のように解き明かされたものは多くはないが存在する。解き明かそうとこちらからアクションを起こしたこともないが、真相はいつもある日突然飛来する。そのたびに宇宙人は驚き、あまりの合点の行き様に慄然とし、そして胸のすく思いがする。長年のモヤモヤの霧が晴れて視界が良好になるからだ。もし長生きすることでこのモヤモヤの霧が年々晴れていくのであれば、長生きする甲斐もあるというものだ。
皆さんはどうですか。脳の中の警報機は作動していますか。ピコピコ言っているのに敢えて無視したりしてませんか。宇宙人の意見では、無視しない方がいいですよ。理由は判らなくとも、とりあえずその時警報が作動したということは記憶しておきましょう。後で役に立つだろうから。

by hikada789 | 2019-02-03 17:52 | その他 | Comments(0)

by 土星裏の宇宙人