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土星の裏側

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宇宙人と呼ばれた人達の診療所

軍隊における受験地獄 (No.1195)

『いまさらですがソ連邦』で気付いたことがあった。ソ連という国は労働者の楽園という建前で成立したためかつての有産階級の肩身が狭く、その煽りで教育程度の高い人もちやほやされず、よほどの国家功労者でもなければ一介の知的労働者として扱われた。学校での成績優秀者はメダルなどを授与されて名誉はあったが、学歴社会ではないので、それが将来の富貴につながるというわけでもなかったのだ。だから大学や大学院へ進むのは本当に学問が好きな人だけであり、日本のようにろくに勉強もしない大学生や大卒が巷に溢れることはなかったし、塾や予備校といった試験対策のための施設もなかった。あるのはせいぜい家庭教師くらいだ。

ではソ連に受験地獄がなかったかといえば、実はあったことが『いまさらですが』に書かれている。それは一般大学ではなく軍大学だった。かいつまんで言うと、軍人になるには義務教育を終えた後、日本の防衛大学に相当する士官学校に入学し、卒業すると一番下の将校になって軍隊勤務が始まるのだが、このままぼんやり勤め続ければ中佐くらいでキャリアが終わることになる。もっと出世したいなら、勤務しながら試験を受けなければならない。25歳くらいになると軍の大学院のようなものを受ける資格が得られ、ここをクリアすれば将官への道が拓ける。更にその先を望むのであれば、参謀本部大学なるものがあって、やはりここの試験をパスすれば司令官クラスの出世が見込める。

ところでこうした試験に備えるには相当の詰め込み勉強が必要で、軍隊勤務をしながらこれをこなすのはかなり無理がある。しかし各部隊は自分の部隊から試験の合格者を出すことが名誉なので、何とか合格者を出したいと思う。そこで成績優秀者を選抜し、文字通り勉強部屋に缶詰にして受験勉強に集中させる。受験生とはいえ給料をもらっているので当然勤務しなければならないのだが、部隊はこれを免除してでも勉強に専念させる。
このため何が起きたかというと、受験生が行うべき勤務を周囲の誰かが負担するなり、或いは全く欠員にしてしまうなりして、本来の部隊運営が疎かになった。その上、勤務を免除されてきた受験生が出世していくため、実務経験のない司令官が増えてしまい、知識だけが豊富で実践に弱い首脳部が作戦立案するようになった。どうもこの時期がアフガン戦争辺りに当たっているらしく、アフガンのゲリラに苦戦したソ連軍は、その人的消耗と戦費によって結果的にソ連という国を瓦解させるに至ったのだった。尤も、このような軍隊内部の弊害はソ連に限ったことではなく、どこの国の軍隊でも同じだという。日本の自衛隊もそうなのかね。仕組みをよく知らないが。

ところで宇宙人がハタと思い出したのは、学生時代の宇宙人が崩壊直後のソ連をほっつき歩いていた頃のことである。まだロシア語をろくに話せない宇宙人は、道を尋ねたり待合スペースで荷物を見ててもらったりするのに、まず第一に家族連れを探して当たり、次に軍人を探して当たった。理由は安全だからだ。家族連れに悪人はいないし、軍人は頼りになる。特に軍人は階級の高そうなのが良く、頼まなくてもいろいろ親切をしてくれる。ロシア人は大抵親切だが、軍人は奉仕精神に満ちているので、貧乏そうな留学生が危なっかしい素振りを見せるとあれこれサポートを申し出てくれるのだ。軍人特有の特権も持ってるから、普通なら入れない所にも入れてくれたりとか、色々便利であった。ありがとう将校たち。
しかし宇宙人がそうした軍人に恐れることなく近付いて行けたのは、どうやら上述のようなお受験エリートの醸す書生っぽい雰囲気や、荒事に関わっていないデスクワークな坊ちゃん然とした風貌が、警戒心を起こさせなかったからだという風に合点がいった。軍隊は本来は殺人集団なので、士官学校で銃器から体術までの殺人技術は必ず教えている。いかに宇宙人が武道の有段者だろうと彼らには太刀打ちできない。実戦を経た兵士など尚更だ。しかし将校はこうした事情で戦闘能力は備えていても野蛮とはほど遠く、受験のせいか無駄に教養が高い。宇宙人が当地で知り合ったロシア軍人はソ連時代に教育を受けた世代だったが、有名な詩を長々と暗唱したり、自ら詩作したり、楽器を演奏できたりと、何かと高級で浮世離れしていた。帝政時代の軍人貴族そのままだ。そうか、宇宙人は軍人貴族に突進していたのだな。なかなか目の付け所が鋭かった。

by hikada789 | 2019-05-14 21:15 | ロシアの衝撃 | Comments(0)