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土星の裏側

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宇宙人と呼ばれた人達の診療所

文章のリズムが合わない (No.1205)

最近の読書は不発続きだ。暑くなって読書もままならなくなる前に長編をと思い、珍しくドイツ文学など手にしてみた。トーマス・マン『魔の山』。昔から一度は読んでおきたいと思って期待したのだが、かなり外れた。いわゆる教養小説、若い主人公が成長していく物語なのだが、四十路の人間の読み物ではなかったな。もっと若い頃に読めば楽しめたのかもしれない。読書とはそういうもので、ほんのちょっとタイミングを逸しただけで、同じ作品であっても感銘を受けたり全く受けなかったりするものだと、中瀬ゆかり辺りが語っていた。まさにその通りで、宇宙人は『魔の山』のタイミングを著しく外したようだ。お蔭で苦痛な読書となった。
まず文体が合わない。ドイツ文学はそれこそ学生時代に皆が知っているような有名どころの中長編小説をいくつか読んだ記憶があるが、当時はそれほど違和感なかった。しかし年を食った今となっては、ドイツ語からの和訳という奴のリズムが全く合わない。しっくり来ない。だから読むのも遅くなる。訳者が悪いのではない。解説文も訳者が書いていたがそちらの文章は実に読みやすい、流麗な和文であったから、訳者の文章力のせいではなく、原文に問題があるのだ。或いはドイツ語そのものに。いや、これは宇宙人に限ったことであって、他の日本人も同様に違和感を覚えるかどうかは判らない。

昨今ではドイツ語で小説を発表してヒットしているという日本人女流作家が話題となって、その作品が店頭に並んでいるのを見るにつけ、どれ一冊くらい読んでみようかという気分になっていたのだが、今回の『魔の山』でウンザリしてしまい、既に及び腰である。或いは学生時代から20年を経て外国文学といえばロシア文学ばかり読んできた影響で、文章から得られるリズムがロシア語仕様になったせいなのかもしれない。ロシア語翻訳者の文章は翻訳者によってそれぞれ個性があるが、やはり原文がアレであるからそうそう大きな差にはならない。尤も、ロシア語翻訳などやる人種は洩れなく頭がロシア色なので、そもそも頭の作りが似通っていて、そんな人たちが文章を捻出すると結局似たようなリズムになるのかもしれない。その点『アナスタシア』シリーズなんかは文学作品ではないし、宇宙と自然からのメッセージをそのまま人類語に置き換えたような文体なので、リズムはロシア語とは多分関係なく超自然的である。あれはあれで病みつきになるけどね。

苦痛の魔の山を終えて今読んでいるのが、古川日出男『女たち三百人の裏切りの書』。文学賞を多数獲っている作家というので期待してみたが、この文体もだめだな。ぶつぶつ途切れるタイプだ。体言止めを多用して強い印象を狙った、舞台脚本調の、ゆっくり読ませるための文体なのだが、残念ながら宇宙人の好みではない。宇宙人の好みは佐藤亜紀のような華麗で猛烈な勢いのある文体なのだ。スピードがぐんぐん加速してクラッシュ=爆笑につながるようなタイプだよ。『女たち』はまだ読了していないが、評判は高いから余程のどんでん返しでも用意してくれているんだろうね。うう、苦しいが何とかして最後まで読もう。

読書の何が苦痛といって、登場人物の誰にも共感できず、魅力を感じることもないというのが一番の苦痛である。『魔の山』も俗物ばっかだったし、『女たち』も功名心で動いているし。かように不発なわが読書週間の中で唯一のヒットは、なんとBLである。『囀る鳥は羽ばたかない』第6巻を令和の初日から買いに行ったくらいツボにはまっている。まあ漫画への傾倒はそれほど長続きしないのが常だが、登場人物には大いに共感している。壊れた人間を扱っているからだ。宇宙人の頭は算命学的陰陽論で物事を分析する癖がついているが、この分析器にかけてもこの作品の歪んだ心理描写は辻褄が合うのであった。だからわが体内リズムにマッチして、心地よい音楽のように読み進められる。絵は上手いし会話やシーンも無駄がなくていいけど、がっつりBLなので興味を覚えた方はご注意下さい。

by hikada789 | 2019-06-11 19:17 | 宇宙人の読書室 | Comments(0)

by 土星裏の宇宙人