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土星の裏側

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宇宙人と呼ばれた人達の診療所

宇宙人の機嫌の取り方 (No.1231)

宇宙人が勤めているキルギスの学校は小中高一貫の私立校で、旧ソ連の国々はこの種の一貫学校が公立でも主流である。1年生から12年生まであり、12年生の時に受ける卒業試験の成績優秀者から大学へ進む。優秀でない者は進学できない。日本の学校のように中学や高校から偏差値の近い生徒が集まる仕組みにはなっておらず、塾や予備校もないが、レベルの高い大学へ進学したい場合は家庭教師をつけたり、場合によっては浪人もあり得るそうである。12年も通う学校が気に入らなければ転校はできる。実際わが私立校でも転出入が激しく、一学年のクラス数もまちまちなら人数もバラバラである。

宇宙人が寄宿しているキルギス人家族の奥さんは、わが私立校の給食のおばさんである。本心ではこの私立校に我が子を入れたいようだが、経済的に無理だという。そのくせ、「私立の子供は家が金持ちだからわがままに育って授業がうるさいでしょう」とか言いよる。宇宙人はこのおばさんが嫌いだ。学がないのに謙虚さがない。人に質問を浴びせておきながら、こちらの回答を全然聞いていない。まだ2週間しか経っていないがもう人間の底は見えた。既に宇宙人にはストレスが明らかなので、なるべく自室に引っ込んで、仕事の邪魔をしないでくれオーラを放って最低限の交流に絞っている。
しかし旦那さんはいい奴だ。学はないが人の悪口は言わない。当国では、男の甲斐性は結婚して子供を作り、自分の両親が健在のうちに家を建ててやることだそうだ。日本もかつては似たような価値観だったと答えておいた。

ところで、年齢に関わらず当地の生徒らは物おじせずに外国人教師に質問を浴びせるが、宇宙人は両目につららを下げて以下のように言ってみた。
「私はロシア語ネイティブではない。君らの質問が心の中から出たものであれば、君らが何を知りたいのか判るから答えることができる。しかし質問が真に興味から発したものでなく、ただ無駄に尋ねているだけならば、私は質問の意味を捉えることができず、回答もしない。このような無駄な質問は相手に対して失礼である。私だけでなく、誰に対しても、このような質問はしてはならぬ。それが対人マナーというものだ。君らはこの意見に賛成か?」
わが担当は小五から高三までだが、どの学年もちゃんと「賛成」してくれたよ。いや助かるなあ。そうなのだ。この辺の価値観は万国共通で、案外子供の方が飲み込み早いよ。大人の方が変なプライドが邪魔してスネたりするからね。この台詞をいつ下宿のおばさんに吐こうかと、邪悪な笑みを浮かべる宇宙人。乞うご期待。

かような有様であるので、宇宙人もそろそろ気晴らしが必要になってきた。知的会話も本もない生活で禁断症状が出る前に、本屋へ出向く宇宙人。わが田舎町に本屋はないので、排ガスバスに耐えて首都へ向かう宇宙人。確かな人の助言を得てお目当ての本を置いてそうな店内を見回す宇宙人。宇宙人のお目当ては当ブログでも紹介したエフゲニー・ヴォドラスキンで、『聖愚者ラヴル』以外はまだ和訳が出ていないからロシア語で読んでみようと思うのだ。
カウンターで店員の兄ちゃんに尋ねるとすぐに判ってくれた。本好きっていいなあ。すぐ探してくれたがあいにく売切れで、注文しないと来ないと言う。前金を払って注文を済ませる宇宙人。兄ちゃんとの会話。
「日本人の方ですか」
「そうだよ、何で判ったの」
「注文票の名前で。日本の作家は村上春樹が人気です。あと三島由紀夫や川端康成など置いてます」
「三島や川端はもう古典だね」
「そう、古典ですね」
「最近は、この国ではどんな作品が人気なの」
「こちらの平積みが売れ筋です。こっちが海外文学、あっちがロシア文学」
いいなあ、こういう会話。ツーカーじゃん。すっかりご機嫌になる宇宙人。ご機嫌ついでに取りあえずザミャーチンの『われら』とアイトマートフの『プラハ』の文庫版を勉強用に購入する宇宙人。注文した本は入荷次第電話で知らせるといってくれたので、また取りに来ることになろう。この兄ちゃんと仲良くなれたらいいな。かように宇宙人のご機嫌取りなど簡単なのだよ。宇宙人は気難しいと思われているが、世の中の気難しい人々も、大体こういう具合に簡単な方法で慰撫できるものなのだ。

by hikada789 | 2019-09-10 22:01 | 宇宙人@キルギス | Comments(0)