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土星の裏側

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宇宙人と呼ばれた人達の診療所

シンプル、綺麗、無駄なし (No.1255)

ヴォドラースキン著『ソロヴィヨフとラリオノフ』をちまちま読んでいる。進度が遅い割には大層楽しい。文章が面白いからだ。宇宙人にロシア語原文を楽しめるほど力量があっただろうか。いや大したことないから進度がのろいのだが、文章がいいのだよ。シンプルな表現で無駄な装飾がないから飾りに惑わされず著者の意図がまっすぐ伝わる。こういう文章はカズオ・イシグロに顕著だと思っていたが、ロシアにもいた。内容も合わせてちょい翻訳するとこんな感じ。

ーー教授は煙草を吸いながら言った。「科学とは退屈なものだよ。君はこの真理に慣れないと、今後の研究は簡単では済まないよ。」
 教授は史学生ソロヴィヨフの学位論文から「偉大な」とか「勝利に導く」とか「唯一可能な」とかの単語を取り除くよう指導した。また、ロシア人が無駄な労力を使って非人間的な冗長さを駆使してきたことを肯定するセオリーを知っているかと、史学生に尋ねた。そんなセオリーなど知るわけなかった。このセオリーを知ってもらうために、教授は「進歩的な現象」という文言も論文から削除するよう彼に指導した。

b0214800_12233176.jpg笑えるなあ。え、別に笑えない? あれ? ロシア語やロシア事情に接していると、ソ連時代(及びその後も)に「偉大な」他カギカッコの中の文言が雨あられと降り注ぐ公式文書や論文に出くわすのだが、はっきり言って訳さなくても通じるからいちいち訳さなかったりする。もはや枕詞みたいなもので、文章のリズムを整えるためにくっつけた習慣修辞語と思ってスルーしてきたが、そうか、ロシア人の中にも「いらない」と感じている人がいたのだな。著者だけがそう思っているのではなく、彼の作品を称賛する読者層も同感だということだ。
そういう価値観の著者であるので、文章は簡潔で無駄がない。しかしウィットが利いているので思わずフレーズを読み返す。そういう作品なのである。とはいえ和訳で読んだ『聖愚者ラヴル』とはかなり雰囲気が違うから、同じ著者でも作風がいろいろあるのかも。文化的刺激の乏しい当地で、現在唯一ともいうべき宇宙人の楽しみは、この小説を辞書を引きひき読み進めることなのである。贅沢な時間の使い方といえばそうかもね。

b0214800_12234429.jpg他に楽しみがないかというと、ないでもない。休暇中は同僚の同級生という美容師さんのところで髪を切ってもらった。ちゃんとシャンプーもブローもしてくれて550円。髪が多いのでグラデーションを入れてくれと言ったらちゃんと入れてくれた。丁寧な仕事ぶりに好感を得る。また来よう。
この店の名前はイシク・アタというのだが、数日後にはその名の由来である温泉地へ遠出した。ミニバスで70分ほどの山地にあり、ソ連時代に保養地として整備された名所だが、ゲートからして老朽化が進み廃園に見える。稼働している温泉は二か所で、水着を着て泳ぐタイプの屋外プールのみ。入場料160円(40分)。この種の温泉施設は東部のイシク・クル湖周辺にあまた存在するが、既に雪景色の山地ゆえ来年春までお預けだ。行ってもいいけどマイカーでないとバス待ちで冷えてしまうから。
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今回の温泉地は首都から日帰りできる距離なので人気が高く、土日は混むからやめた方がいいとの助言を受けて平日に行ってみた。宇宙人が入った時は空いててよかったが、出る頃には画像のような家族連れが押し寄せた。よかった、早めに行って。ソ連時代に最新だったと思われるコンクリの噴水や遊歩道は半ば朽ち、保養所として並ぶ病棟や宿泊施設も半分は廃屋。新築中の建物もあったが、周囲がせっかく山地なので、ハイカー招致の整備をすればまだまだ観光地としてやっていけると思われる。是非そうしてほしい。ハイキング道を整備してくれたら一泊してもいいよ。山はいいし空気もきれいだ。
しかし何より改善してほしいのは交通だよ。片道100円と破格のミニバスだが、ミニバスの通例として乗り心地はよくない。常に定員オーバーだし、風呂に入る習慣のない地元住民が悪臭を放っている。勿論窓は開かない。寒いから開けられない。料金3倍にしてもいいから観光客用デラックス車とか作ってくれないかな。そしたらちょいちょい行くのだが。あ、勿論ヴォドラースキンの文章のように簡素、無駄なしの清潔美を目指してくれたら尚有難い。

by hikada789 | 2019-11-08 12:25 | 宇宙人の読書室 | Comments(0)