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土星の裏側

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宇宙人と呼ばれた人達の診療所

にゃにい~‼ 〈カンチャーユ事件〉 (No.1262)

当地の職場が雀の涙ほどの給与の足しにと無料提供しているロシア語講座が始まってから、生活の質が劇的に向上して浮かれる宇宙人。向上したのは勿論精神世界である。というのは、当地には宇宙人を含めて三人の日本人が招聘されているが、宇宙人のロシア語力は入門レベルではないので、他の二人と離して個人レッスンを受けることになったからだ。しかもいい先生に当たった。現代小説は知らないが古典は知悉しているロシア文学専門家で、ソ連時代の人であり、ユーモアもある。宇宙人が教材として勝手に持ち込んだヴォドラースキンの小説を一緒に読み進み、面白がってくれているのでなお有難い。本好きっていいなあ。


この小説は大作なので読了するのは来年春頃になりそうだが、浮かれる宇宙人は再び首都の数少ない本屋に足を運び、同じ作家の別の作品も購入した。帰国前に読み終わるとも思えぬが、帰国後の楽しみにするのだ。自分土産なのだ。
顔なじみになった本屋の兄ちゃんが宇宙人のチョイスを見て、「こういう作風が好きなんですか。だったらこちらの作家なんかもおススメですよ」と危険な営業トークを始める。
「ヴォドラースキンは日本で和訳を読んで感動したのだよ。でも今読んでいる原文の作品は非常に読みやすい。表現が日本的というか、シーンを想像しやすいのだ。文体かなあ。こういう文体やテーマが好きな私におススメの他の作家はありますか」
「こちらのアレクセイ・サリニコフは日本の安部公房に作風が似ています。こっちのアレクセイ・イワノフは三島由紀夫寄り。グリゴリー・スルジチェリは視点はユーモラスですが作風はヴォドラースキン寄り。ミハイル・エリザロフは作風がヴォドラースキンに似て、歴史を絡めるのが得意です」


あまりに的確な情報に打ち震える宇宙人。ああ本屋の兄ちゃんよ、君に出会えて良かった。読書習慣のない人間に囲まれた灰色の三カ月であったからねえ。よし、君の助言に感謝してもう一冊買っていこう。なに、ロシア語の先生も一緒に読んで喜んでくれるさ。

こんな具合に本屋帰りはいつもほろ酔い気分の宇宙人。しかしそんな宇宙人の眉間に厳しい縦ジワの寄る事件があった。題して「カンチャーユ事件」。ロシア語関連の話題なので読みにくいかもしれませんが、お時間のある方は以下をご覧下さい。
カンチャーユというのは、ロシア語で「終わりにします」という一人称単数形の動詞である。ところが宇宙人がこのフレーズをランチの終わりに「もう食べ終わります」という意味で発したところ、同席していた他のキルギス人教師らが軒並みにやけたのである。発音が悪くて何か卑猥な言葉に聞こえたのかなと思って尋ねてみたが、答えてくれない。同様に宇宙人が授業の終わりに「授業を終わります」という意味でカンチャーユを使うと、生徒らも笑った。どうやらよからぬ言葉を連想させるようだ。しかし宇宙人のモスクワ滞在時には誰もこんな風に笑いはしなかったし、当時の宇宙人の発音は今の発音と変わらない。だからきっとキルギス語に関係があるのだ。そう思っていた。


さて宇宙人のご機嫌の元であるロシア語の授業があったので、早速先生に訊いてみた。年配でユーモアのセンスもある先生は、ああ、という顔をして真面目に答えて曰く、「それは俗語でセックスを終えた時に言うセリフなの。キルギス語じゃなくて、ちゃんとロシア語よ」。
しかし宇宙人は訴える。「でもモスクワでは普通に使ってましたよ。誰も笑わなかったし、私自身もロシアの古典文学で「カンチャーユ」で締めくくる手紙の文章を読んだのを覚えています」
「そうよ、『エフゲニー・オネーギン』の有名なシーンでそのフレーズがあるわ。私はロシア文学も教えているけど、このフレーズで生徒たちが笑っても知らん顔してやり過ごしてます。笑う子供は卑猥なことを想像しているけど、笑わない子は想像していない。そういうことよ」
「でも子供だけじゃありませんよ。この学校の教師たちもそうだったんです。ランチの時に。だからてっきりキルギス語に関係しているのかと思ったんです」


さすがに絶句する先生。その呆れた大人の表情から事情を察する宇宙人。腹の中で「にゃにい~!」とうなり声を上げる宇宙人。キルギスのロシア人人口は約1割。学校の教師もほぼその比率である。ランチで笑った教師らは全員キルギス人であった。本を読まないキルギス人。歴史を学ばないキルギス人。自分のロシア語の発音の悪さに気付いていないキルギス人。母国語ではないロシア語に勝手に下品な想像を乗っけるキルギス人。とこういうわけですよね先生。わかった。よくわかりました。糞ってことですよねここは。
宇宙人だって「五時に夢中」の岩井志麻子の発言でケラケラ笑うくらい下ネタ好きだけど、シモにもレベルがあって、低レベルのものは厳しく軽蔑している。岩井志麻子はハイレベルなのだよ。その辺のオヤジのセクハラ発言は低レベルだし、キルギスはそれ以下だ。小学生のレベルではないか。幼稚この上ない。そうキルギス人は幼稚なのだ。とっくに気付いていたことではないか。

ロシア語の先生は当然ロシア人だし、本屋の兄ちゃんは顔つきからしてコーカサス系だからキルギス人ではない。このままいくと宇宙人の当地の交友はキルギス人抜きの方が楽しいということになりそうだ。なんたることだ。想像だにしなかった。宇宙人はいま年天中殺だから、予想外の展開になることは覚悟していたが、よもやよもやかような事態が待っていようとは。本当にがっかりだ。
ちなみに「終わります」というフレーズを曲解されずに当地で使うには、ロシア語に頻出して外国人を困らせている接頭辞をくっつけるのが有効である。アカンチャーユやザカンチヴァユに替えるのだ。こういう作業を宇宙人も強いられてきた。だがもう辞めよう。先生に倣って知らん顔して言ってやるべし。だってモスクワの上品な住民らは普通に使っているのだから。キルギスの下らぬ田舎訛りに合わせてやる必要などないのだよ。


by hikada789 | 2019-11-27 22:42 | 宇宙人@キルギス | Comments(0)