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土星の裏側

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宇宙人と呼ばれた人達の診療所

カテゴリ:宇宙人@キルギス( 14 )

No.1242続き。キルギス文化が朝鮮文化に似ていると思う根底には、言語と遊牧が関与している。世界の言語はその文法形態によっていくつかのグループに分けられているが、西のトルコから始まるトルコ系遊牧民族の国々を東へ進み、モンゴル、朝鮮、最後は日本へと亘る一帯の言語グループをウラル・アルタイ語族と言う。英語やロシア語等のインド・ヨーロッパ語族に対し、我々の言語は人称変化とは違った用言活用をし、格変化の代わりに助詞が発達し、動詞は主に最後に来る。同じ語族の言語の習得は、語順を変えたり馴染みのない文法で立ち止まったりする必要がないため比較的容易だ。そして言語はその使用者の文化に影響するので、同じ語族の使用者同士は物の考え方や捉え方に類似性が見られる。たとえ生活形態や食文化、宗教等が違っていてもである。
とはいえ、日本は大陸から切り離された島国なのでその文化は異色である。その日本の目を以って見ると朝鮮からトルコに至る長大な文化圏は、馬を乗りこなして草原を駆け巡り、農耕ではなく遊牧し、野菜よりも肉や乳製品で栄養を取る点で概ね一致している。勿論伝統的生活形態のことであり、近代化以降はこの限りでないが。


そこで具体的に何が似ていたかというと、キルギスの家庭はイスラム以前の自然崇拝の影響を色濃く残している。家によってはイスラム寄りの場合もあるが、自然崇拝型だと男尊女卑が希薄になって、代わりに年功序列が幅を利かせる。
あるイスラム家庭に招かれた40代の日本人女性の体験によると、お客にも拘らず彼女は女であるが故に給仕係として男たちの茶碗にお茶を注いで回る役目を命じられたそうだ。しかし宇宙人の体験では、自然崇拝型家庭の伝統は厳格な年功序列であり、お祝いで羊肉を出す際には一番いい部分の肉を男女を問わず最年長者に供し、その次の部位は二番目の年長者にというように、性別ではなくはっきりと年齢順に年配者が敬われる仕組みになっていた。
たとえば宇宙人の最初の下宿でこの種の羊肉祭りがあった時、宇宙人は日本人の例にもれず十歳以上若く見られていた。それでその場で六番目くらいの部位の肉が与えられる予定であったが、年齢を訊かれたので答えると、その場で四番目の年長者であることが発覚し、急遽肉が取り換えられたのであった。こっちは外国人だから序列はどうでもいいし、羊肉にこだわりもないのだが、彼らはそういう文化的制約の中で生きている。


そうした中で、興味深い話を聞いた。私の印象ではキルギス人はあまり飲酒も喫煙もしないのだが(比較対象はロシア人)、飲酒や喫煙が許される法的年齢を尋ねると、それは認知されておらず、父親が我が子に許可しない限り飲酒も喫煙も許されないのだという回答が返ってきた。それはいつ頃なのかと問うと、成人して結婚し子供が二人くらいできたら許可するという。それが一人前の大人の証だというわけだ。
そこで思い出したのだが、私が学生の頃ゼミの教授がトルコ人の風習について語るに、トルコの男性は決して父親の前で喫煙しないという。父親のいない所ではさんざん吸っているから周囲はヘビースモーカーであることを知っているが、父親だけが自分の息子の喫煙習慣を知らず、禁煙者なのだとずっと思っていた、ということがよくあるという。そして全く同じ風習が、韓国でも確認されていた。もう20年以上経っているから今もそうかは判らぬが、こういう習慣は日本でもロシアでも見られないので、彼らに共通の風習なのだと考えられよう。


これだけならまだしも、宇宙人は思わず眉をひそめる風習を目撃した。上述の羊肉祭りでの出来事で、宇宙人は宴席で肉を振る舞われるべき大人として扱われたが、未成年は同席を許されず、ただ大人たちの指示に従って飲み物を注いだり皿を下げたりする給仕にいそしむのである。もう大学生の年齢なのに女の子は台所仕事を、男の子はウエイターの仕事を黙々とこなし、まあ別室で肉の一部くらいは貰っているだろうが、どちらも召使のように大人に扱われていた。その心中は判らない。当然のこととして何とも思っていないかもしれないが、宇宙人は不快だった。小さな子供ではないのだから大人の会話に参加して社会性を磨くべきだと思ったからだ。


こうした諸所の光景を見るにつけ、宇宙人の目にはキルギス人は子供っぽく映っている。目上の許可がいるのは小さいうちだけでいいだろうに、いつまでも子供扱いするせいで各人の社会的成熟が遅れているという印象が拭えなかったし(下宿の幼稚な女将のこともあった)、そうやって成長した大人が自分の番になると今度は目下をアゴで使う風景が、美しい伝統とは映らなかったのだ。こうした感覚は、日本で数多く放映されている韓国ドラマが描出している当地の親子関係にも通底している。だから宇宙人は韓国ドラマは見る気がしないのだが(日本のドラマでさえほぼ見ないけど)、とりあえずキルギス人の「知的でない」家庭では韓国ドラマが人気だ。共感するものがあるらしい。

日本では会社における年功序列が弊害として論じられる昨今であるから、私も多少はその影響を受けているだろうが、算命学者として、子育ての最大の目的はいかに早く自立した大人に成長させるかであるという発想があるので、孫が生まれるまで延々子供扱いという態度はどうにも敬えない。遅すぎる。健康事情で子供が作れない人の扱いなどはどうなるのやら。
一人前の定義は人それぞれだろうが、子供の成熟を妨げかねない習慣は悪習に入る。かように思い、宇宙人は現時点でキルギス文化に好意を抱けずにいる。


by hikada789 | 2019-10-21 09:53 | 宇宙人@キルギス | Comments(0)
システム障害が解消しました。現在、運勢鑑定を受け付けておりますのでお知らせまで。ふー。
前回のNo.1243読んでくれました? フォントがヘンでしょう? これはね、宇宙人の就労する学校のPCを使ったからなのだよ。土曜日に引っ越して、その喜びの記事をアップしたのも束の間、翌日曜にはネットが繋がらなくなった。当地はWiFiが普及していても突然通信が途切れる事態が常態化しているため、半日待てば復旧するかと据え置いたのだが、直らない。月曜にはPCを職場に持ち込んで学校のWiFiを使ってみたが、繋がらない。でもスマホは繋がっているから、WiFiはちゃんと動いている。つまりわがPCに異常があるらしい。火曜は別の校舎で授業だったのでそっちへ持ち運んでみたが、やはりだめ。どうしたのだ日本製PCよ、8月に買ったばかりではないか!

水曜日。マイPCはネット接続以外の機能は問題ないので、苦肉の策でマイPCで書き上げた算命学余話の記事をUSBメモリーフラッシュに移し、情報処理の先生に頼んで学校のPC室の一台を使わせてもらう宇宙人。しかし先生曰く、日本語の使える台はUSBを受け付けず、USBを受け付ける台はロシア語と英語しか使えない。つまり編集ができないからコピペしかない。宇宙人はいつも記事をワードで書いて、完成したらメモ帳に移してフォントフリーにしてからブログなりパブーなりにアップするのだが、今回の事態ではワード文書からコピペすれば妙な改行で表示されるし、メモ帳を開こうとしたらPCにアプリがなくて開けないといった有り様。急遽グーグルドライブを立ち上げ、そこへメモ帳文書を引きずっていく宇宙人。そこでメモ帳文書を開く宇宙人。あ、開いた!
コピペで土星裏とパブー、フォークNに大急ぎでアップする宇宙人。タイトルや帯もちゃんとコピペできるように文句を準備しておいた宇宙人。ひたすらコピペする宇宙人。授業が始まって中学生らが各々PCをいじる中、鬼のようにコピペする宇宙人。よし、完成だ! PCが古くて画像が粗く、日本文が正しく表示されているか微妙であったが、もし今後わがPCがネットに入れなければ毎回こうしなければならぬと、腹をくくる宇宙人。フォントがいつもと違う気がしたが目をつぶる宇宙人。読者の皆さん、ちゃんと読んでくれるかなあ。

翌木曜朝、ダメもとでマイPCを開いて再びネットに接続する宇宙人。やはりダメ。失意の中「設定」を物色する宇宙人。トラブルシューティングを試すがやはりダメ。ガッカリしながら「ネットワークのリセット」をクリックして稼働させる宇宙人。5分後の再起動を待てというので待つ宇宙人。再起動画面でネット接続を試みる宇宙人。あ、繋がった! 思わず立ち上がる宇宙人。と思ったのも束の間、また途切れるPC。再度接続を試みる宇宙人。また繋がった! 今度は逆戻りしないぞ。やったあ、神様、ありがとう!(涙)
という具合の四日間でした。ああ無駄に疲れたよ。まあ復旧方法が判ったらからちょっとは賢くなったけど。しかしトラブル原因は未だ不明。まさか前の下宿の女将が呪いでもかけているのではと疑うほど不可解だったが、この事態をメールで見守っていてくれた日本にいる友人が奇しくも「下宿のオバサンの怨念じゃないの」とコメントを寄せてきたので、のけぞって笑わせてもらった。いかにもやりそうな女なんだこれが。なにせ宇宙人は「本当にあった生霊事件」の体験者だからねえ。まだ読んでない人は検索してご覧下さい。笑えるから。
とはいえ、当地のネット環境が万全とは言えないことはこれでよく判った。なので、運勢鑑定は開店しますが、いつ突発的に不通になるか予測できないため、それを考慮してご依頼下さい。回答を急ぎたい方は一年後まで待った方がストレスにならないかも。

by hikada789 | 2019-10-17 21:01 | 宇宙人@キルギス | Comments(0)
新しい下宿に引っ越した。おめでとう、宇宙人! ありがとう、皆さん! 何がそんなに目出たいのかというと、キルギス人の名誉のために言っておくが、どうやら1件目は、劣悪な種類の人間の下宿にたまたま当たってしまったようだからだ。最初は遊牧民の習慣と思しき衛生観念の低さが日々ストレスとして蓄積していったので、いよいよ下宿を変えると決めたときには「ロシア人家庭を探して下さい」と職場に申請した宇宙人。20年前とはいえモスクワでの下宿生活は都合4件経験したが、衛生上の恐怖は感じなかった。公衆トイレとかは地獄絵だったが、平均的なお宅なら掃除は行き届いていた。それを思い出して、キルギス人家庭は軒並みこうなのかもしれぬと、人口の1割に満たないロシア人宅を所望したのであった。学校の校長を含む多くの同僚はキルギス人であり、宇宙人のこの申請は彼らの気分を害したと思われる。まあそうだよね。でも仕方ない。宇宙人だって初めてのキルギスなのだ。一年健康を保たねばならぬのだ。こんな些細な家庭内不衛生で病気になどなってたまるかなのだ。

ところがこの2週間、つまり職場に転居を申し出てから今日までに、下宿の女将の態度が急降下。もともと人の悪口ばかり垂れて自分の非を突かれると言い訳を並べてごまかす類の下らぬ幼稚な人間であったが、宇宙人が校長に訴えた転居理由を校長の口から伝え聞いた女将は、宇宙人の部屋の入口に立ちはだかってどれほど自分が恥をかいたかをまくし立てるのであった。下らない話はこれくらいにするよ。読者の耳汚しになるからね。お上品なモスクワ訛りのロシア語しか聞き取れない宇宙人に浴びせられた不快な文言の数々については想像してくれなのだ。
キルギス人の名誉のために繰り返すが、これは決してキルギス人の国民性ではない。というか世界共通の、育ちの悪い愚かしい女によくあるタイプであって、日本でだってそれはもう何十人も見てきたよ。皆さんだってそうでしょう。職場とかいくらでもいますよね。対処法はなるべく関わらないよう距離を取ること。宇宙人はうまくやったよ。だからこうして無事に引っ越しを果たしたのだ。まあ女将が自分を擁護するためについたらしい嘘の数々が宇宙人に対する校長の評価を揺るがした感は否めないが、宇宙人は真実しか相手にしないという態度を崩さないので、職場の同僚らもだんだん宇宙人の人となりが判ってきて、近付く人と敬遠する人とにはっきり分かれてきたのだった。ほら、やっぱり日本といくらも違わぬではないか。

お家騒動はこのくらいにして、実は今回の事件で見えてきたものがある。それは「キルギス人告げ口体質説」である。提唱者はとりあえず宇宙人一人であるが、実は前例がある。前年度に当地へ赴任していた日本人教師の話では、ホームステイをしていると今日一日何をしたかあれこれ聞かれ、それが逐一校長へ報告されるらしいのだ。その理由としては、せっかく招聘した日本人が他の大学や学校に引き抜かれないよう見張っていたというのが有力な説なのだが、見張られる側が気付けば当然不愉快になる。どうもその不愉快によって自分たちが嫌われかねないという感覚が、キルギス人には希薄なようなのだ。
あくまでここ1カ月半に培った宇宙人の見解に過ぎないが、そうだ、とピンときたものがある。それは、ソ連時代が厳しい監視社会であり、特にスターリン時代は密告奨励の時代であったことと関係する。宇宙人が長年付き合ってきたロシア文化とロシア人は、実は告げ口体質でないというのが宇宙人の見解である。では誰がソ連を密告大国にしたのかというと、やはりトップに君臨していたスターリンであり、彼はロシア人ではない。グルジア人であった。

グルジア人とその文化については疎いので何とも言えないが、ここキルギスにいると、どうも悪意ばかりでもない告げ口体質というか、何気ない日常の一言がいつの間にか方々へ伝え広がっているということがある。それも尾ひれがついて。端的に言って、話が正しく伝わっていない。ホウレンソウの習慣がないのは勿論、「明日あの人のためにこうしてあげましょう」と皆の厚意で一致したのに、当の「あの人」にその話が全然伝わってなくて計画がおじゃんになったとか、なりそうになったとかいう話が頻発している。
かくいう宇宙人も今回の引っ越しの際、新しい家主との面会と内見が一日延期になったのに、職場からは次の面会予定について何の連絡もなかった。ありがたくも下宿の女将がたまたまブチ切れて暴言を吐いたので、「次の家主との面会はまだか」と校長に督促の電話をしたところ、今から一時間後にセッティングされているというではないか。副校長や運転手も知っていて事務所で待っており、知らないのは当の宇宙人だけであった。おいおいなのだ。

このようなすれ違いや言い忘れが多発しているため、約束を守るという感覚は非常に希薄である。時間に遅刻するのは海外でありがちとしても、多分、人間の言葉の堅固さが軽んじられている。誰もがテキトーなことを言ってそれが習慣化しているようなのだ。イスラム教徒にありがちな「イーンシャッラー」で自分の遅れを神様のせいにしようという感覚はほぼないと断言しよう。それほどイスラムは当地では浸透していないのだ。イスラムとは関係なく、ただ言葉がテキトーなのだ。その極端な例が下宿の女将の下らない嘘八百なのだ。自分の言葉に責任を持たない。
その裏返しとして、人の言葉に尾ひれがついて遠くへ運ばれることがある。いちいち挙げないが宇宙人も随分いろんな噂になっているらしいよ。事実無根なんだけど。そんでこないだ「私は嘘が嫌いだ」と面と向かって言ったら、相手が絶句してしまった。なのでもう一度言ってやった。何度でも言ってやるぞなのだ。そして一年後にどういう評価が宇宙人に貼りついているか見てやろうなのだ。いずれにしても、この無責任な言葉の伝播は、当のキルギス人たちに損をもたらしている。

余談。以前、日韓併合前の朝鮮政情について論じた研究書が、当時の朝鮮支配層を「告げ口体質」と評していたのを思い出した。まだ王朝の時代だったが、政敵を排除するために外国の力を借りるべく、中国や日本の政治家や有力者に自国の利権を売って軍事援助を得ようとする体質が王朝内にはびこっており、朝鮮は自ら国の財産を外国へ売り渡したと。その外国へのアプローチがまさに告げ口であって、あることないこと悪口を並べて「奴はけしからん」と思わせて軍隊を派遣してもらうのが彼らの常套手段であったというのである。当時は「なるほど」と思った程度だったが、ここキルギスで図らずも体験している気がする。キルギスと朝鮮の文化的類似点についてはいずれ述べよう。

by hikada789 | 2019-10-12 18:06 | 宇宙人@キルギス | Comments(0)
本屋もないような我が滞在地は町の名をカントといい、キルギス語で「砂糖」を意味することからキルギス人でさえ砂糖が語源なのかと勘違いするほどだが、正しい語源はドイツの哲学者カントなのであった。隣町はリュクセンブルグという。先述の通り、当地はソ連時代にロシア人・ドイツ人の入植者が多く住み、町そのものが彼らの手によって建設された例も少なくない。首都と景勝地イシク・クル湖を東西に結ぶ幹線道路沿いに位置するこの町もその一例で、ソ連崩壊後彼らの置き土産となった立派な家が売却看板を提げていることは既に述べた通りである。
旧ソ連のヨーロッパ側の地域では、ソ連崩壊後町の名前や地名がソ連以前の元の名称に戻される例が相次いだが、ここキルギスでは首都の名称がフルンゼからビシュケクに変わったくらいで、方々の地名はそのままである。カントやリュクセンブルグはそれ以前に町があったわけではなく、戻す名前もないのであった。

町名や売却中の立派な家屋の他にドイツ人を偲ばせるものとしては、野良犬がある。狂犬病警戒地域である当地は多くの野良犬が路上生活をしているが、キルギス産とおぼしき小型の短毛種に混じって、しばしばシェパードやボクサーのような大型犬種を見かける。また犬に比べると猫は少なく、猫は放し飼いなので野良ではなさそうだが、たまに長毛のペルシャ猫やシャム猫も見かける。その高級そうな出で立ちが過去の繁栄を偲ばせるのであった。ペットとはいえ零落ぶりが嘆かわしい。
わが居住区はかようにさびれた田舎町であるが、首都はそれなりに発展している。中心地には帝政時代の貴族の屋敷かそれを模した欧風マンションが立ち並び、街路樹の脇には小洒落た鉄柵やベンチが連なり、山から引いた水が水路を涼しく流れている。これを見れば「宇宙人よ、何ゆえこっちに住まないのか」と不思議に思うほど垢抜けた地区は確かにある。では何ゆえだ、宇宙人。
あ、うんそれはね、多分見かけだけであることが経験上判っているからなのだよ。中心地は車が多くて排ガスが気になることもあるし(日本車ばかりだが排ガス規制前の中古車なのだ)、庶民向け住宅が不足しているのに金持ち向け高級マンションが建設ラッシュであることも、歪みを感じずにはいられない。
4000m級の山脈を誇るトレッキング名所とイシク・クル湖くらいしか見どころのないキルギスには、僅かな観光収入以外には農作物くらいしか産業はなかろうと思っていたが、それだけでは首都のこのきらびやかさは支えられない。では一体何が支えているのか。

実はキルギスの主産業は農業ではなく、金鉱山であった。山奥で金が採れるのだ。そしてそこに利権が生じるため政治が腐敗し、国民の生活向上のための政策に目が向けられず、結果的に貧富の差が広がる。その社会の歪みが、首都の外観を過剰に飾り立てているというわけなのだった。
宇宙人がこの首都を不審の目で眺めるのは、外国人の目につくような名所や大通りはきれいにしていても、カフェに出てくる料理の皿やスプーンは濡れたままだし、路地を一本入ればゴミは捨て放題で(多分野犬が漁るせいで被害が拡大している)、公衆トイレは地獄絵図であるからだ。それはもう実見する前から予見できていた。そして残念ながら、キルギス人の国民性もまた、そうした上辺だけの見栄えや清潔だけを気にして、本当の豊かさや衛生についてはなおざりなので、宇宙人には嘘っぱちに映り、この国に未だ好意を抱けないでいるのだった。まあいきなり下宿がハズレだったこともあるが、これもまた社会の縮図の一つであることに変わりはない。

b0214800_20065954.jpg思うに、国の発展に不可欠なのは製造業である。モノづくりというわけだ。ソ連崩壊後のロシアが暗黒の十年を経て立ち直ったのは、何と言っても国内の製造業が生きていたからだ。確かにロシアは産油国ではあるが、産油国であっても石鹸ひとつ作れない国はあまたある。ロシアは品質は悪くともソ連時代に培った製造ノウハウで国産品を生産しつづけ、輸入品に完敗する前に自国製品の質を上げることに成功した。画像はその成果のロシア産シャンプー。ここキルギスでは高品質として中国産より評価されている。「レジェンドな品質」とコピーまで書いてある。隔世の感があるなあ。宇宙人がモスクワに暮らした頃はシャンプーもコピーもへったくれもなかったからねえ。一方キルギスは、ソ連崩壊後は医療が崩壊するまでに低迷し、自立した国民生活を支えるほどの製造業と呼べるものは見当たらない。まさに農業と金鉱だけで、日用品は輸入品ばかりだ。つまり金を売ったカネで物を買うだけである。石鹸ひとつ作れない産油国と同じで、将来は見えている。

宇宙人は日本語教師だが、当然日本文化についても多少は知ってもらいたいと思っている。しかしながら、日本通で鳴らしている校長先生でさえ、「広島・長崎以降に奇跡の復活を遂げた日本のできたことを、我々もできないはずがない」とスピーチするわりには、自国と日本の決定的違いがモノづくりに対する意欲であることに気づいていない。日本語を学んで首尾よく日本留学に漕ぎ着ければ、そこで先進国の生活を学んで自国に広められると単純に考えている。そこにはモノを買うのではなく自ら作るという高度な思想と意欲が不可欠なのだが。かように宇宙人は思い、やはり当国を評価できないのであった。

by hikada789 | 2019-10-07 19:54 | 宇宙人@キルギス | Comments(0)
Wi-Fiのおかげでラグビー・ワールドカップもリアルタイムで観戦できている宇宙人。それほど熱意がないので有料視聴するまでには至らず粗い画像で我慢しているが、フェアプレーが身上の日本チームの逆転勝利を見るのは心沸き立つものがあった。地球人の友人の報告によれば、例によって日本の報道は自国の予選勝利をもてはやすばかりで、もっと上位のチームのスーパープレーも見せるべきだとの批判もある。
多分宇宙人も日本にいたら同じように苦言を呈したであろうが、いま自身が僻地にいるお蔭で日本バンザイな気分が高まっており、いささか冷静さを欠いているという自覚はある。初動でつまずいたせいで当地の言語や歴史を学びたいという意欲は減退し、ロシア語の強化レッスンも未だ始められず、引っ越し先も決まらない。幸か不幸かWi-Fiの効用で日本の番組を視聴できるせいで、気晴らしに「五時に夢中」や「ニュース女子」、ラグビー中継その他ラジオ番組などを聴く時間が増えた。最近の傑作は堀江貴文氏とN国党首との対談。N国党幹事長として上杉隆まで加わっていた。何だこの並びは。へえマツコが槍玉に上がっているのか。意外。まあ「五時に夢中」は木曜日が安泰ならそれでいいのだが。

Wi-Fiといえば、スマホデビューから一カ月。日本ではガラケーで十分用が足りていた宇宙人は、相変わらず最低限のスマホ使用しかしていない。当地で購入したサムスンの格安スマホ本体は約9000円で、その場で通信契約も結んだが初期費用は300円、月額使用料は一番軽い2GBプランで260円である。安くて助かるなあ。まあ宇宙人の日本語教授報酬が月150ドルで、当地の平均月収に近いから妥当な数字ではある。
このスマホは途上国の周波数のため、日本に持ち帰っても使えないことが分かっている。だからせいぜい楽しく使い捨てるべく、就寝前のリラクゼーションにカプースチン先生の楽曲をはじめ、瞑想音楽や森の自然音、せせらぎや焚火の音などを耳元で鳴らし、ささくれた心を慰めている。Wi-Fi使用料はひと月で5GBを超えてるから、かなりの聴きっぱなしである。え、宇宙人、やっぱり疲れてるのでは? にしては毎朝のストレッチで腕立て伏せが50回できてるくらい元気なんだよ。年を取ったせいかなあ、最近何事にも怒らなくなってきた。便宜上怒ったフリをしていることが多くなったよ。何というか、期待するものが何もないってことかもね。それともそのうちガクッと来るのかな。まあ当ブログで宇宙人の心の綾を感じ取って下さい。

by hikada789 | 2019-10-03 19:41 | 宇宙人@キルギス | Comments(0)
在ビシュケクの日本大使館は小規模だと前回記載したが、建物は物々しい。頑丈な鉄門は入口がどこか見分けにくい造りになっており、中に入れば一丁前に空港ばりの荷物・身体チェックゲートがある。とはいえそのゲートを管理している現地人スタッフは人の良さそうな太った初老男性で、押し込み強盗に太刀打ちできるようには到底見えぬのであるが。当該大使館がいつからこの仕様なのかは知らぬが、一年ほど前には中国大使館にテロトラックが突っ込んで炎上したらしい。そういう事態も想定してかような体制が一般化しているのだろう。閉鎖的に見えてあまりいい印象を与えないのであるが仕方ない。当の中国大使館は事件後、最大限の警戒を払って建物全体を要塞状に建て替えたという。一遍見に行ってみるかな。

b0214800_11313612.jpgテロトラックが突っ込んだのには理由がある。当地では(当地でも)中国人は嫌われている。主原因は一帯一路に代表される人的流入とその仕事のまずさだ。一帯一路事業の一環として中国とキルギスを結ぶ道路が建設中なのだが、例によって中国は現地人を雇わず本国から中国人を連れてきて仕事をさせている。当然キルギスは恩を感じないし、中国人は「汚い」(現地人の誰もがそう言う)ので軽蔑の対象になっている。
ただでさえこんな反中感情なのに、腐敗したキルギスの政治家が中国と癒着して、ある発電所の修理を中国企業に依頼した。当然仕事は雑だ。その結果、工事終了後早くも故障。何ヶ月も氷点下が続く当地の冬の電力が途絶えるという事態に至り、市民は激昂。他にも中国人がキルギス人を暴行する映像などがネットに流れ、市民の怒りのピークとしてトラック突入炎上に結実したらしい。この種のテロは世界各地でしばしば起こっているが、こうした事情なのでイスラム過激派の犯行ではなかったという。いずれ別の記事に書こうと思うが、当地はイスラム熱が低く、そもそも国民の宗教性は希薄である。ソ連時代に広まった無宗教と、イスラム以前の土着信仰が影響している。

b0214800_11314763.jpgところで宇宙人の同僚のキルギス人は日本語が堪能だ。既に日本語教授のキャリアを長く持ち、日本留学経験もある。その彼女に日本語を始めたきっかけを尋ねたところ、回答は以下の通りであった。「当時選択肢は日本語と中国語があった。父親は将来の仕事の幅を考えて中国語を選択するよう勧めたが、自分は中国の汚いのが嫌で、日本語を選択した。日本は清潔で秩序立っている印象があり、自分には好ましかった。この印象は今も変わってはいない。」
実際この先生は清潔だし、総じて教育程度の高いキルギス人に不潔感は見られない。とはいえ途上国の貧しさと遊牧民の伝統から、先進国並みの衛生観を求めることはできない。宇宙人は早くも下宿先の変更を学校側に願い出ているが、その原因の一つはやはり衛生観の差なのであった。見た目はきれいでも、触るとベタベタする日常が一ヶ月を超えた。山小屋生活も40日が限界だった宇宙人には潮時のようである。
b0214800_11315389.jpgキルギス人には申し訳ないが、次の下宿にはロシア人家庭をという希望を出した。宇宙人がモスクワ滞在中に経験したロシア人宅(4件)に、衛生観の大きなギャップは感じなかったからだ。とはいえ、首都ビシュケクなら簡単に見つかるものも、当田舎町ではなかなか見つからない。ロシア人は元支配階級なので、大体首都に暮らしているものなのである。当田舎町でもキルギス人家庭なら見つけやすい。一方毎日の通勤バスの不快感(空気が悪い)に耐えるのであれば首都のロシア人家庭は結構選べる。そんなわけでまだ足場の固まらぬ宇宙人の日常なのであった。
キルギスのイケてない話題が続いたので、せめて画像は可愛く土産物に。登山用にぴったりの厚手の靴下のデザインがなかなか良い。鹿柄や雪の結晶柄はよくあるが、ハスキー犬やリスは珍しいので一足買ってみた。冬に使って履き心地が良ければお土産にしよう。サイズが一種類なのが残念だがウールだし。下の画像はウズベク産の皿。よく中央アジアの土産として紹介されている。色使いが特徴。いずれも郊外にあるドルドイ・バザールの商品。市内より安く買えると評判。

by hikada789 | 2019-09-30 11:33 | 宇宙人@キルギス | Comments(0)
先週キルギス在住の日本人の会に参加してきた。入国後日本大使館へ在留登録をしに行ったら、窓口の書記官の方がこの会の幹事をされており、早速バーベキューランチ会があるというので行ってみたのだ。
大使館といえば邦人に冷たい在モスクワの日本大使館がお馴染みの宇宙人にとって、大使館職員がこういうイベントを仕切っているというのは新鮮だった。ロシアや米国など主要な国々にある大使館は確かに仕事が多いので、一般邦人の生活の面倒まで見切れないという理屈は判る。しかし庶民が眉をひそめる結構な給料を貰っている割には「使えない」仕事ぶりだし態度は悪いしで(北方領土は返ってきてないしね)、納税者としては憤りを禁じ得ないのであるが、幸いというかキルギスは小国で大使館も小規模、日本から要人が来訪する機会もそうはないので職員は多分ヒマがあるのだろう。聞けばこの書記官は日本の警察からの出向という身分だそうで、正義感が強くて奉仕精神が高い(きっと車騎星・牽牛星入ってる)。キルギスで起きている邦人被害や危険情報を集めては小まめにメールで注意喚起をしてくれる。どうですか、在外邦人の方。こういう大使館職員ってそういませんよね。
b0214800_11455041.jpgそんなわけであまり現地の日本人とべったり付合うつもりのない宇宙人ではあるが、情報収集と顔つなぎまで野天会場へ赴いた。画像は市内でも名を知られているビシュケク郊外の休暇村施設の、石焼きバーベキューの様子。鉄板ではなく、黒光りする岩石を薄く砕いた石板を熱して焼くのである。豪快だ。羊肉に飽きている日本人のために用意された肉は牛、豚、そしてなぜか地鶏。味付けは会に引き継がれているという焼き肉のタレ。ほのぼのしてるなあ。

勿論宇宙人は飲み食い目的で来たわけではない。情報収集だよ。結構なイタくてご苦労な話を聞いた。というのは、キルギスに住む日本人の多くは大使館員かJICA職員、及びその家族で、後は民間企業の方たちだが、滞在目的は途上国のための技術支援やその研究である。農作物研究もあればIT技術者育成もあるが、中でもイタかったのは医療制度支援であった。
当地は狂犬病の警戒地域であるが、万一感染した場合には決して現地の病院に行ってはいけないし、他の重篤な病気や怪我の場合もインドや中国へ出て治療を受けるべしというのがここの常識である。ロシアより中国の方がマシなのか? いやロシアはビザが煩雑だし、モスクワやサンクトは遠いからね。中国なら日本へも帰国しやすいし。
しかし、ソ連時代にはロシア以外の構成国も中央と同程度の医療レベルであったはずなので、ソ連崩壊から約30年経ち、経済発展も多少はしている当地の医療が壊滅状態と聞いて驚いた。ロシアでもソ連崩壊直後の混乱期は一時的に壊滅状態だったが、とっくに立ち直っている。もともと医療レベルは高いのだ。どうしたロシア人、同胞も多く住むキルギスの医療を支援してやらないのかい。やらないから、日本人がやるのだという。

話によれば、ソ連時代から引き継いでいる医学部など学術レベルは維持できているものの、医者になってもまともな収入が確保できないため、優秀な医者や研究者は海外に出てしまい、後に残るのはヤブ医者ならまだしも、なんと医師免許のないフツーの人間が平気で病院の看板を掲げているという。勿論正しい治療などしていない。真似事をするだけで報酬を得ている。患者はたまったものではない。しかし医師免許のない人間だというのなら、一体何の資格を持っている人間が当地で医者を騙っているのかと聞いたら、「経営です」と返ってきた。
申し訳ないが、爆笑したよ。だってここ30年ばかり「大学で経営を学んでいます」と誇らしげに語る外国人学生を国内外で多数見てきたが、どれも頭はお粗末で、恐らくまともな大学に入る学力がないものだから、例えば中国など金儲けのために門戸を開いている大学へ留学して、安く資格を取ろうという目論見が見て取れるからだ。地球人の皆さん、ちゃんと見てくれ、経営を学んでいると胸を張る学生の目の中の知性の有無を。本当に知性のある学生なら、経営などわざわざ学ばなくともとっくに起業できている。残念なことにキルギスでは、かように知性を欠いた経営資格保持者がよりによって医療業界で幅を利かせているのであった。
この惨状を改善すべく、某日本企業が現地機関と共同で医療制度を整備し、まずは医師試験の厳格な実施、その前段階の医師の育成、倫理指導、医師が海外へ逃げないよう十分な報酬を確保するなど、最低でも十年はかかるプロジェクトを立ち上げたところだという。他の先進国は参加しないのかと聞いたら、例えばスイスの医薬品企業などは薬を提供することはしているが、人間や法律の育成という難事業はやりたがらないのだとか。そうだろうなあ、聞いただけで大変そうだし。
キルギスのアウトな話はまだまだあるが、今回はこれくらいに。

by hikada789 | 2019-09-27 11:47 | 宇宙人@キルギス | Comments(0)
宇宙人のキルギス滞在はボランティアという扱いである。食事付きの住居が無料で提供され、給料は現地の職員と同じ条件で支給される。この国の平均月収はざっくり日本の1/10である。当地の物価は安くていくらも出費を強いられないのではあるが、節約して給料を貯めたところで渡航の往復航空券を買えばチャラか、やや赤字で終わる。そうだよ、航空券は自腹なのだよ。そんな一文の得にもならない条件でなぜ引き受けたのかというと、宇宙人が好む条件が付いていたからだ。それはロシア語とキルギス語の無料授業である。
宇宙人は既にロシア語を使って仕事をしてきたが、ネイティブ並みに流暢というほどではない。ロシア語文法は複雑で、ロシア人言語学者にさえその知悉には「終わりがない」と言わしめている。モスクワ留学時には優秀な指導者に恵まれ、その文法の何がどう複雑なのかを体感することができたが、習得はほんの一部に留まり時間切れとなった。従って、ロシア語学習は専門家の指導を受けられさえすれば、学ぶほどに上達が期待できるのである。そこに終わりはないのだから。

一方、キルギス語はトルコ系言語に属し、日本語と同じウラル・アルタイ語族である。文法は近く、単語と基礎文法を押さえれば比較的習得は容易だ。イスラム圏の言語としてはペルシャ語とアラビア語をかじっている宇宙人にとって、トルコ系言語は初挑戦になる。トルコ語を大学で履修しなかった理由は以前に述べたが、平たく言えば、ペルシャと比較して文化的洗練を感じなかったからだ。今回この印象を払拭できるいい機会になるかもしれないと乗り込んでみたが、どうも払拭はできそうにないというのが現在の感想だ。
原因は音楽性である。間もなく入国一ヶ月になるが、キルギス語の響きが好きになれない。母音の種類が日本語より多く、くぐもった音や「ゲ」音、「チャ・チュ・チョ」音が多発する。地理的に近い韓国語に似ているかもしれない。トルコ製ドラマ「オスマン帝国外伝・欲望のハーレム」を見ていた頃はそれほど気にならなかったから、恐らくキルギス語特有の発音なのだろう。しかし残念ながらわが耳には美しい音としては認識されぬ。

総じて宇宙人の耳には韓国語や中国語は卑猥な音が並ぶ言語であって、上品には聞こえない。それでも、例えば知的な人物が物静かに語っている場合や、漢文の朗読などは、卑猥だとは思わないし、上品に聞こえることもある。要するに話し手の成熟度や知性が音声に反映するのである。
この点は日本語だって英語だってロシア語だって同じだ。宇宙人が英語を嫌うのは、恐らく巷間に溢れる英語の多くが知的でないからであり、ロシア語を好むのは、ロシア人が伝統的に文学や社会思想、古典芸術を好んで扱い、それが日本で紹介されてきたため、低俗なロシア語を耳にする機会なく今日に至っているからだ。いや、下品なロシア語というのは実際には世間で相当の幅を利かせているが、お上品なロシア語をモスクワで学んだ宇宙人の耳には聞き取れないのであった。

b0214800_10364806.jpgさてキルギス語だ。多分初動が悪かった。先述の通り、教養のない家庭に下宿することになった宇宙人の耳には、知性に欠けるキルギス語が多く耳に届いている。ラジオでニュースを聞くとそれほど聞き苦しくはないから、多分この家庭のキルギス語が低俗なのだ。下宿の主婦は訛りの強いロシア語を早口でまくし立てるが、その内容もお粗末である。バイリンガルであろうとも、同じ人物の話す内容と雰囲気に変わりはない。いずれにしても、宇宙人の耳はキルギス語を心地よく聴くことができずにいる。第一印象って大事なのだ。
9月から始業した学校の授業はまだ流動的で、自分の担当授業もまだあちこち移動している最中なので、これが落ち着くまでロシア語もキルギス語も授業は始められない。それでもロシア語は自宅でラジオを音楽代わりに聴いていれば聞き取り練習になるし、キルギス語もネットで基礎文法を学ぶことはできる。だから最初はそうしていた。しかし今はロシア語ラジオは聴いているが(こないだトーク番組で男女のセックス観の違いを論じていた。面白かった)、キルギス語入門講座は停滞している。既にやる気が失せている。初動でコケたというわけだ。
キルギスにガッカリしたエピソードは他にもあるが、次回に譲るとしよう。せめてもの慰めに、画像は学校から眺めるアラ・トー山脈。山はいつだって綺麗だ。日本の山も、たとえ山小屋でコケようとも、山が期待を裏切ったことはないのである。

by hikada789 | 2019-09-20 11:59 | 宇宙人@キルギス | Comments(0)
b0214800_12231854.jpgキルギスの人口の約10%はロシア人をはじめとする旧ソ連諸国の民族やその混血で、大多数のキルギス人ともども公用語であるロシア語で日常をやりくりしている。キルギス語も公用語ではあるが、人口の約10%が使えないので、公文書や街中の表記はロシア語とキルギス語の併記となっている。キルギス人同士の会話は勿論キルギス語であり、ロシア人同士の会話はロシア語、異民族同士の会話もロシア語である。
しかしモスクワでロシア語を身につけた宇宙人の耳には、キルギス人の話すロシア語は訛りが強くて聞き取りにくい。キルギス語自体が抑揚が少なく、日本人には早口に聞こえるため、それがロシア語会話にも反映されて聞き取りにくくしているのだと思われる。ちょうど日本人の話すカタカナ英語のようなもので、どんなに流暢であってもネイティブの発音にはならない。そもそもロシア人のロシア語には独特の抑揚があり、早口ではあっても強調箇所がイントネーションの上下によって予測できるので、ぶっちゃけ話の半分を聞き逃しても本人が一番言いたい部分だけに的を絞れば意味はキャッチできるのである。キルギス人のロシア語にはそれが通用しない。
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両者はメンタルも当然違う。互いにそれを自覚しており、まだ情報収集不十分な段階ではあるが、ロシア人はキルギス人を「アジア的な閉鎖性があってなかなか打ち解けようとしない」とこぼしているし(いや、ロシア人が道ばたで簡単にお知り合いになる習性も度が過ぎているのだが)、キルギス人は長らく植民地支配を受けた歴史から、ロシア人には羨望と、恨みとまではいかない僅かな鬱屈を抱えている。

ソ連崩壊後は自由に出国できるようになったため、キルギスに住むロシア人やドイツ系移民の多くがより豊かな生活を求めてそれぞれの出身国へ帰っていった。上の画像は宇宙人が暮らす田舎町の戸建ての例で、外壁のオレンジ色はかなり個性的ではあるが、二階のベランダ部分や屋根のヘリに木彫りの模様が見られる。ロシア語で「木のレース」と呼び、編み物のレース状の彫刻を家屋の前面に施すロシア人の伝統工芸である。この種の戸建てが町内に立ち並んでいるが、木彫り模様のないのがキルギス人のお宅である。
b0214800_12234205.jpg画像のお宅はかなり綺麗な部類で、もっとしょぼくて老朽化した家屋も多数ある。しかし面白いことに、綺麗で立派そうな家屋ほど「売却」の看板を掲げている。キルギスを去ったロシア人やドイツ人の残した家屋というわけだ。数件ごとに見かける売却看板には悲しい気分になる。最近ではロシア人のみならず、キルギス人自身も海外へ職を求め、成功者はあまり帰って来ないらしい。国内のロシア人と結婚するキルギス人は、子供の教育をロシア語一本に絞るのが流行りだそうで、キルギス語話者は減少傾向にある。

こうした固有の民族文化が消滅していくのを「惜しい」と思うのは、どうやら日本人の特徴らしい。当のキルギス人は平然としているし、なぜ関係のない外国人である日本人が惜しむのか不思議に感じるようである。以前、宇宙人が知り合った中国の辺境出身の女性が、「昔(皇帝の時代)は女性だけが書く女文字という漢字がひと通りあったが、近代化以降書き手がいなくなり、山奥に住む、貴族階級だったある老婆が最後の書き手となった。これを知った日本人研究者が、この老婆が死ぬ前にひとつでも多くの女文字を残そうと聞き取り調査を行っていた」と語っていたが、この中国人女性も「こうした古い文化の消滅を惜しむのは日本人ばかりで、当の中国人は何とも思わないのだ」と言っていたのを思い出した。そんな日本人のノスタルジーを掻き立てそうなご近所の画像(上から「地平線へ伸びる線路」「音もなく流れる小川」「荒野の向こうのアラ・トー山脈」)。

b0214800_12234939.jpgところで、カプースチン先生の曲を練習しようと学校に半ばうち捨てられたピアノを見つけ、音もろくに出ないような有様ではあったが頑張って弾いてみたら、守衛さんがいつの間にか後ろで聴いていた。大変な感激ぶりであった。いや、ピアノはひどい音だし、私の技術も拙いし、すごいのは作曲したカプースチン先生だよと言ったが、守衛さんは首を振って、泣き出さんばかりに握手をぶんぶんするのであった。この人、名前はキルギス風だが風貌は明らかにロシア系で、ロシア人の芸術に対するこの種の感激ぶりには見覚えがあった。文化活動の少ない田舎に特にありがちで、ほんの僅かな「本物」の芸術に触れただけで過剰なほどの衝撃を受ける人をたまに見かける。ちなみに守衛さんが感激したほんの僅かな部分とは、カプースチン先生のピアノソナタ第一番の、四楽章のイントロ部分である。ここは宇宙人がノーミスで弾ける数少ない箇所であった。
守衛さんは授業のない土日も常在しているので、いまは工事中の離れの部屋が整ったらそこにピアノを移すから、また弾いてくれと言ってくれた。これがロシア人特有の「道ばたでお知り合い」の好例である。人の素直な感激というのは、なかなか清々しいものである。こうした文化芸術への反応は、キルギス人には見られない。

by hikada789 | 2019-09-17 12:25 | 宇宙人@キルギス | Comments(0)
宇宙人が勤めているキルギスの学校は小中高一貫の私立校で、旧ソ連の国々はこの種の一貫学校が公立でも主流である。1年生から12年生まであり、12年生の時に受ける卒業試験の成績優秀者から大学へ進む。優秀でない者は進学できない。日本の学校のように中学や高校から偏差値の近い生徒が集まる仕組みにはなっておらず、塾や予備校もないが、レベルの高い大学へ進学したい場合は家庭教師をつけたり、場合によっては浪人もあり得るそうである。12年も通う学校が気に入らなければ転校はできる。実際わが私立校でも転出入が激しく、一学年のクラス数もまちまちなら人数もバラバラである。

宇宙人が寄宿しているキルギス人家族の奥さんは、わが私立校の給食のおばさんである。本心ではこの私立校に我が子を入れたいようだが、経済的に無理だという。そのくせ、「私立の子供は家が金持ちだからわがままに育って授業がうるさいでしょう」とか言いよる。宇宙人はこのおばさんが嫌いだ。学がないのに謙虚さがない。人に質問を浴びせておきながら、こちらの回答を全然聞いていない。まだ2週間しか経っていないがもう人間の底は見えた。既に宇宙人にはストレスが明らかなので、なるべく自室に引っ込んで、仕事の邪魔をしないでくれオーラを放って最低限の交流に絞っている。
しかし旦那さんはいい奴だ。学はないが人の悪口は言わない。当国では、男の甲斐性は結婚して子供を作り、自分の両親が健在のうちに家を建ててやることだそうだ。日本もかつては似たような価値観だったと答えておいた。

ところで、年齢に関わらず当地の生徒らは物おじせずに外国人教師に質問を浴びせるが、宇宙人は両目につららを下げて以下のように言ってみた。
「私はロシア語ネイティブではない。君らの質問が心の中から出たものであれば、君らが何を知りたいのか判るから答えることができる。しかし質問が真に興味から発したものでなく、ただ無駄に尋ねているだけならば、私は質問の意味を捉えることができず、回答もしない。このような無駄な質問は相手に対して失礼である。私だけでなく、誰に対しても、このような質問はしてはならぬ。それが対人マナーというものだ。君らはこの意見に賛成か?」
わが担当は小五から高三までだが、どの学年もちゃんと「賛成」してくれたよ。いや助かるなあ。そうなのだ。この辺の価値観は万国共通で、案外子供の方が飲み込み早いよ。大人の方が変なプライドが邪魔してスネたりするからね。この台詞をいつ下宿のおばさんに吐こうかと、邪悪な笑みを浮かべる宇宙人。乞うご期待。

かような有様であるので、宇宙人もそろそろ気晴らしが必要になってきた。知的会話も本もない生活で禁断症状が出る前に、本屋へ出向く宇宙人。わが田舎町に本屋はないので、排ガスバスに耐えて首都へ向かう宇宙人。確かな人の助言を得てお目当ての本を置いてそうな店内を見回す宇宙人。宇宙人のお目当ては当ブログでも紹介したエフゲニー・ヴォドラスキンで、『聖愚者ラヴル』以外はまだ和訳が出ていないからロシア語で読んでみようと思うのだ。
カウンターで店員の兄ちゃんに尋ねるとすぐに判ってくれた。本好きっていいなあ。すぐ探してくれたがあいにく売切れで、注文しないと来ないと言う。前金を払って注文を済ませる宇宙人。兄ちゃんとの会話。
「日本人の方ですか」
「そうだよ、何で判ったの」
「注文票の名前で。日本の作家は村上春樹が人気です。あと三島由紀夫や川端康成など置いてます」
「三島や川端はもう古典だね」
「そう、古典ですね」
「最近は、この国ではどんな作品が人気なの」
「こちらの平積みが売れ筋です。こっちが海外文学、あっちがロシア文学」
いいなあ、こういう会話。ツーカーじゃん。すっかりご機嫌になる宇宙人。ご機嫌ついでに取りあえずザミャーチンの『われら』とアイトマートフの『プラハ』の文庫版を勉強用に購入する宇宙人。注文した本は入荷次第電話で知らせるといってくれたので、また取りに来ることになろう。この兄ちゃんと仲良くなれたらいいな。かように宇宙人のご機嫌取りなど簡単なのだよ。宇宙人は気難しいと思われているが、世の中の気難しい人々も、大体こういう具合に簡単な方法で慰撫できるものなのだ。

by hikada789 | 2019-09-10 22:01 | 宇宙人@キルギス | Comments(0)